150 森の道(4)
「ぜー……はー……」
息が上がる。
足がもつれる。
ヨロヨロと5人、草の上に転がった。
「やばか……っ……」
目の前に、空が見える。
ありがたい事に、一つ通りを渡ってしまえば、その後は家の裏を見付からないように陰を渡っていけばいいだけのようだった。
「みんな大丈夫か?」
「うん」
「問題ありませんわ」
「キュ〜イ」
「…………?」
一人、返事がない。
いつも大人しいイリスの事だから、それほど心配はないと思うが。
頭を起こし、イリスの方を見る。
「…………」
無言で、座っているイリスと目が合った。
表情がなくても、焦っている事が伝わってくる。
「え」
起き上がり、イリスのところまで行く。
様子がおかしい。
もしかして……。
「腰、抜かしたのか?」
「あ、……はい」
その声は、戸惑いを含んでいた。
イリスは、今までほとんどをあの洞窟で過ごしていた。
こんな大冒険をするのは、人生で初めての事だろう。
「ふっ……」
思わず笑みが溢れる。
こんな姿で、どう見ても人間じゃないのに、こんなに人間らしいなんて不思議だと思ったのだ。
イリスに手を貸してやる。
「大丈夫か」
「はい」
イリスがユキナリの手を取る、その瞬間だった。
イリスの身体が、宙に浮いたのだ。
5人の姿を全て覆い尽くす影の出現と共に。
イリスが、どんどん離れて行く。
「イリ……ス……!」
思わず出た声は小さくなった。
目の前に居たのは、オークの子供だ。
いつものズシンズシンいう地響きがなかったので、気付かなかった。
けど、そうだよな。
見つかってしまえば、静かに近付いてくる事も可能だという事だ。
短剣に手をかける。
ハニトラとマルが、戦闘態勢を取ろうとする。
けれど、その動きの全てが、一手遅かった。
ざざざざざ、と全員が、馬車ごとその子供に掴まれてしまったのだ。
子供は、右手にイリス、左手には残り全てを抱え、じ……っと一つ一つ検分するように見つめた。
歳の頃は5歳くらいだろうか。
喋る気配はない。
絶体絶命って言葉は、こういう時に使うんだって、理解した瞬間だった。
やばい。
握りつぶされるんじゃないか、なんて思いが、頭の中を走っていく。
万が一、握られているイリスに力が入ったら?
もし、割れたり、それでなくてもヒビが入ったりすれば、イリスはどうなるのだろうか。
ゾッとしたまま、他のメンバーの様子を見る。
すぐ近くにいるのはハニトラだ。顔が確認できたので、頷きあう。
その向こうに、マルの頭が見え隠れする。
トカゲは馬車に頭を突っ込んでいるらしく、馬車からはみ出す尻尾が見えた。
大丈夫、か?
ここで声を出すのは危険だと思い、息を殺す。
「ふん、ふん」
子供は、何か理解した、とでも言うよう声を出した。
そしてあろう事か、子供は俺達を連れて、どこかへ走り出したのだった。
おとなしそうな子供に拉致られた一行は果たして……!