149 森の道(3)
樽の大きさは、微妙に違った。
ユキナリの樽は大きい方だ。
ハネツキオオトカゲの樽は身体よりも少し小さいようで、しっぽがすっかりはみ出していた。
「まさかこれでうまくいくわけ……なんて思いながらも、つい期待してしまう」
ゲームでも、確か、段ボールをかぶって敵の目を欺くものがあったはずだ。
あんな風に……オークの目くらい欺くのでは……?
ありがたい事に、樽を形成する木には隙間があいていた。
実際に、家の中をそのまま歩いてみる。
後ろの樽の中は見えないが、見えなくてもハニトラがドヤ顔しているのがわかった。
家の中は、全てが大きい。
だが、部屋の壁が茶色だからか、それほど明るい照明がないからか、5つの樽はなんだが部屋に馴染んでいた。
ガコッ。
その時、その部屋にあった扉が開いた。
丁度、台所のあった部屋の奥にある部屋だ。
扉の向こう側が外である事を確認する。
誰かが……入ってきた……。
ちゃきっと樽の中に収まる。
5つきれいに並んだ樽が、ピッタリ同じタイミングで床に置かれる。
隠す様に馬車も隣に置いた。
真っ暗な樽の中で、細い隙間から光が漏れた。
冷や汗を流しながら、細い隙間の向こう側を凝視する。
息を殺す。
隙間からは、確かにオークの足が見えた。
オークには一見して性別はあるようだったが、これが男か女かはわからない。
見つからないように。
不審がられないように。
短剣に手をかけ、じっとする。
ゴッゴッゴッゴッ……と、足音が聞こえる。
木靴でも履いているのか、大きな音が響く。
おかげで、どこに居るのか分かりやすいというものだ。
左へ。右へ。
「…………」
嘘だろ…………。
あろうことか、オークは、樽を気にする事もなく、何処かへ行ってしまったのだ。
「ふぅ……」
「キューイ」
ハネツキオオトカゲの明るい声が聞こえた。
これはいける。
5人は、樽ごと体当たりするように扉を開けると、樽のまま外へ出た。
人通りの少ない通りだった。
「この通りを渡って行きますの」
後ろの方から、マルのアドバイスが聞こえた。
「よし」
5つの樽はオークの村の通りを渡った。
土でできた道の上を。
真横に通り過ぎる5つの大小の樽。
木にかけてある金属が、キラキラと陽光に光る。
後ろから、ハネツキオオトカゲが引く馬車もついてくる。
「よし、これで悠々と道路を渡れる……」
わけがなかった。
道路を渡る樽など、目立つに決まっていた。
ドスドスドスドスドス!
オークの子供達の足音が聞こえる。
「なんだあれ!道の真ん中に樽が置いてあんだけど!」
「ユッコのじゃねーの?蹴っ飛ばそうぜ」
うおおおおおおおおお。やべぇ!!
5人は慌てて樽から飛び出すと、道の向こう側へ、急いで走った。
「なんか今、走ってかなかったか!?」
「トカゲでも捕まえてたんじゃねーの!?」
「ひゃっほー!」
バン!
という弾けるような音が5つ。
樽は青空の中へ飛び上がる様に飛んでいった。
ひゃあああああああああ!!
心の中で叫びながら、5人は後ろを振り返らず、一目散に走ったのである。
樽で目眩しは無理だったようです。