146 つまりそれが触手回ってやつ(6)
マルの身体が枝に絡め取られる。
「く……っ!」
「マル!」
ハニトラが、鋭い視線を向けた。
大変だ。
このままでは、本当に妄想が現実になってしまいそうだ。
枝は容赦なくハニトラの腕へ。そして、イリスの腰へ巻きついていく。
「やめろおおおおおおおおおおお!!!!!!」
飛び込んで行こうとした先で見たものは。
ハニトラの腕に巻き付いた細い枝と。
ツルン。
そして、そのままハニトラの腕から滑るように離れていく枝だった。
「…………へ?」
ハニトラが嫌な顔をするだけで、枝はするりするりと抜けていった。
……なんだこれ。
枝がぬめっているからなのか?それとも、ハニトラの特性か?
確かに、両腕両脚が刃へと変化するハニトラの事だ。
掴めなくても不思議ではない。
実際にハニトラは、ユキナリの目の前で、腕を刃に変え、その枝を切り落として見せたのだ。
それでは、とイリスの方を見る。
イリスの方も、大差は無かった。
イリスの腰に回った枝は、その力の入れ具合からして思いっきり力を入れている様なのだが、イリスの方はびくともしない。
重いのだ。
ただひたすらに重いのだ。
上を見上げる。
マルは、枝に持ち上げられるのを見たから、なんだかエロい事になっていても不思議はない……。
なんていう、気持ちで見上げたけれど、そこに居たのは、
「ギャアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
半泣きで遊園地の回る絨毯にでも乗せられた子供の様な叫び声を上げるマルチーズの様なマルの姿だった。
それで目を回させる作戦なのかなんなのか、マルはトレントの上空をグルグルと旋回させられていた。
「…………」
呆気に取られる。
そして勢いをつけてジャンプしたハニトラに、すぐに救助されたのだった。
「う……、うおおおおおおおおおおお!!」
ユキナリが、苦しみの顔で目の前の枝をザクザクと切り刻む。
枝が全体的に引いたのはその時だった。
「はぁ……はぁ……」
トレントは、落ち着いた声で言う。
「強さ、わかった。通っていい」
「…………ああ」
なんだかモヤモヤとしたのものを感じながらも、ユキナリは、一つ息を吐いた。
森の中を歩く。
森の中に道はあったものの、あまりに獣道だったものだから、馬車は揺れに揺れた。
そんなわけで、全員、馬車から降りて歩く事になったのだ。
馬車からは、荷物がゴトゴトと揺れる音がひっきりなしにしていた。
ユキナリは、トレントと別れてから無言だった。
笑う事もなく、真っ直ぐに前を向いて歩いていた。
「う…………う……」
突然、爆発する様な気持ちが襲ってくる。
「うあああああああああああああああ!!!」
頭を抱え、しゃがみ込んで突然叫ぶユキナリに、女子3人は不穏なものを感じ取ったという。
そんな触手回だったのでした。