144 つまりそれが触手回ってやつ(4)
いや、どうしても、あの枝に、いかがわしい想像をしてしまうのだ。
どう見ても木の枝って感じじゃないしな。
あの枝が万が一……、ハニトラに触れる様な事があったら……。
想像してしまうのもためらわれ、頭をブンブンと振る。
いくらハニトラ本人が素っ裸が好きだと言っても、所構わずエロい事をするという意味ではないだろう。
ユキナリが妄想と戦う間、トレントは話を続けていた。
「行くのは構わない。ただ……」
「ただ?」
「途中、オークの巣がある。危ない」
「ああ、わたくしたち、全員それなりに戦えますのよ」
マルが自信ありげに言う。鼻はツンと上を向いた。
しかし、トレントはそれにうんと言わなかった。
「やられてしまわないか、心配」
そしてトレントは、確かに心配そうに、枝を震わせた。
樹液が飛び散る。
ユキナリの足元にも、液体はボトッと落ちた。
地面に染みるわけでもなく、トロトロとしたものが地面に落ちているところを見ると、やはりただの液体というわけでもないらしい。
「ま、ママママママル?」
「あなたのママになった覚えはありませんわ」
「俺もお前に産んでもらった覚えはねーよ。いや、あの樹液?害はあるのか?」
そう。
例えば、服が溶けてしまったり…………、身体が火照ってしまったり…………、そういうやつだ。
「何もありませんわ」
「何も???」
いやまさか……あの外見……、何かあるだろ。
むしろ何かあって欲しかった。
「ええ。食用にしても問題ありませんわ。……まあ、食べませんけども」
「食用!?」
ユキナリのその驚きように、マルがギョッとしたくらいだ。
まさか……口に入れる……?アレを……?
ユキナリが、足元の樹液を眺める。
あまりにもべっとりしていて、喉に絡みそうだ。
ハニトラが……アレを……?
いや、想像するな想像するな。
「心配!!」
トレントの声が、空に響く。
遠くで、その声に驚いたらしい鳥の鳴き声が届く。
「試験、しようと思う」
トレントの声は真剣だった。
「し、試験?」
トレントの枝々が、四方八方に蠢く。
それはさながら、その枝一本一本に意思が宿っているような動きようだった。
上へ下へ。
右へ左へ。
伸び縮みするそれは、どこからでも攻撃可能である事を示していた。
ビチャビチャと樹液が飛び散る。
ハニトラが、真っ先に戦闘態勢を取った。
「一度、戦ってみる。全員いっぺんに来てもいい」
戦う……!?
「なんてことを言い出しますの!?」
なんて言いながらも、ジャンプで刃を咥え、意外と戦う気のマル。
イリスは、黙って杖を握っているところを見ると、あの見た目に引いているのかもしれない、と思った。
「さあ!来い!」
言いながら、トレントは随分やる気で、少女達3人に襲いかかった。
これってもしかして、触手回じゃありませんか!?
触手回になるんじゃありませんか!?