143 つまりそれが触手回ってやつ(3)
ねっとりとした液体が、幾つもの枝の先から垂れる。
フルンフルンと、柔らかそうな枝が振られる度に、そのねっとりとした液体が辺りへ飛び散る。
ユキナリは、その姿にゾッとした。
「なんだ……あれ…………」
「トレント、ですわ」
「あれ……。ああいうものなのか……?っていうのは、えっと……、その……、液体が……?」
「ですわね。トレントは木の形をしてはいますけど、実際に木かというとそれは……。体液の量は、まあ、個体差がありますし、……わたくしもあそこまでは見た事がありませんわ」
「なるほど……?」
「まあ、木にも樹液というものがありますし」
そういう問題か?
なんか……いかがわしくないか?
とはいえ流石にそんな言葉を口にするわけにもいかず、口を一文字にして、トレントに近付く。
馬車は直ぐに、トレントの前で止まった。
「……こんにちは」
声を掛ける。
近くで見ると、その太い幹に顔が付いている事がわかった。ファンタジー感が強い木だな。
それにしても、フルフルと震える枝は、近くで見るとより一層エグい……。
「こんにちは」
トレントは、地面が震える様な低い声を出した。流石、根を下ろしているだけはある。
「ここ、通っていいかな」
「何用か」
問われた問いに、なんと答えるか。ここで、嘘を吐くのはなんだかバレそうで嫌だった。
「仲間の家族に会いに行くんだ」
すると、トレントは馬車の中のメンバーを舐め回すように見る。
「魔物が3匹。それと……それは、ゴーレムか?」
ユキナリが、イリスの方を振り返る。
「ああ。大事な仲間だ。言葉も交わせる」
「こんにちは」
紹介されたイリスが、おずおずと挨拶をした。
トレントはもう一度視線をユキナリに戻し、まるで値踏みするかのように目を細める。
「まあ、家に帰るのをダメとは言えない」
「じゃあ……!」
何も問題なく通してくれるのかと期待した矢先、トレントは枝をぬめっと、馬車の前に差し出した。
「けど、その二人の顔、見た事ない」
「それはそうですわ!わたくしは、獣人。ここを出た時は、まだ小さくここも以前のトレントさんでしたし」
マルが抗議する。
「私も、ここは寝ている時に通ったから、挨拶は出来てない」
ハニトラが慌てて言い放つ。
確かに、ハニトラもここを出る時には捕まってたはずだ。トレントの顔を見る暇なんてなかっただろう。
「う〜ん」
トレントが悩み出した。
悩む時は、枝がブルブルと震えるらしい。
やめてくれ。なんだか見ちゃいけないものを見せられている気がするのだ。……気のせいだろうが。
女子3人に見せて大丈夫なものなのか不安になるくらいだ。
マルなんか堂々としているが、それでいいのか?本当に大丈夫か?
ハニトラも直視しているが……、目を塞いだほうが良くないか?
ユキナリは、一人、こっそりと冷や汗をかきつつ、トレントを眺めた。
さて、このメンバーで触手回になる事はあるのでしょうか。