141 つまりそれが触手回ってやつ(1)
相変わらずユキナリは、ゴーレムの噂や、魔女の噂を求め、客の話に耳を澄ませる日々だ。
とはいえ、あまりめぼしい噂話はないか。
今のもっぱらの話題は、首都で行われる祭の事みたいだ。
まだ祭までは2ヶ月ほど時間はあるけれど、それゆえに、そんな大きな祭の直前である今、それの準備の依頼で冒険者達も賑わっている。
「なんでも、首都では裁縫の依頼まであるって事だ」
「はっはっは!なんだよそれ。ダンジョン関係ねーじゃねーか」
「それだけ、裁縫屋だけじゃ間に合わないって事だろ」
「採掘の依頼にしても、今年はすごいな」
「今年の祭は、大掛かりだって噂だからな」
なるほどな。
首都へは行くつもりだから、興味深くはあるが……。
そこで、ユキナリの耳に入ってきたのは、こんな話だった。
「…………魔物の森の……」
…………?
魔物の、森……?
それはきっとこれから向かうつもりの場所だ。
「木が…………」
気になって近付いてみる。
ふむ。
後ろ姿から見ると若く見える、あの二人が話しているのだろう。
どうやら多人数パーティーから離れて二人で話しているようだ。
真後ろまで行って、じっと聞いてみる。
「………………?」
「………………?」
なんだ?どうして何も話さない……。
と、ユキナリが顔を上げると、その二人連れと目が合ってしまった。
「うわぁ」
「うわぁはこっちだよ」
笑い合う。
どうやら、ユキナリと同年代のようだ。
あっという間に意気投合し、三人で顔を突き合わせて話す事になった。
二人のうちの一人が、声を落とす。まるで、怖い話でも始めるみたいに。
「魔物の森にはさ、番人がいるんだ」
「番人……?」
ユキナリも、つられて声を落とした。
「ああ。それが……トレントなんだ」
「トレント。……って、木の魔物か」
その名には聞き覚えがあった。
見た事はないが、ハニトラと一緒に読んだ『魔物大図鑑』に載っていたやつだ。
枝が伸びるんだよな、確か。
「それが今年の番人は、なんだかネチネチしているらしい」
「ネチネチ?」
「トレントは喋れる魔物だからさ、冒険者達は採取の為に森に入るのに、トレントの番人の質問に答えて入れてもらうんだ」
「なるほど、な」
会話で成り立つ魔物なら、幾分かありがたい。
「それが、今年は戦闘を挑まれるパーティーが多いらしいんだ」
「戦闘になる事もあるのか」
「もちろんだ。まあ、トレントは強いし、動けないという特徴もあって、なんとかやり過ごして進むパーティーが多いがな」
「ふぅ」とそこで二人はため息を吐いた。
「冗談じゃないよなぁ。魔物の森の採取って言ったら、この時期だけのかなり美味しい依頼なのに」
「なぁ〜」
と、二人で腕組みをし、うんうんと頷き合う。
ユキナリも、その場で頬杖を突く。
森の番人というくらいだから、そこに森への入口があると考えていいだろう。
目指すは、そこか。
いよいよ森へ向かいましょう!