140 山頂の小屋(3)
クルクルとハニトラが回ると、短いスカートが翻った。
ヒラヒラとしたミニスカート。
背中のリボン。
肌が見えているわけでもないのに主張する胸。
若干、喫茶店とはかけ離れている感じはするが、飲食店の制服らしい制服で、まさに可愛いとしか言いようがない。
「えっへへ」
ハニトラはなかなかに楽しそうだ。
「客がいる前でクルクル回るなよ?」
ユキナリが苦言を呈す。
ハニトラが、きょとんとした顔を向けたので、ユキナリは困った顔を逸らす。
「あー……、見えてる、から。スカートの中」
ハニトラはそれで、理解不能だと言いたげに眉を寄せたので、ユキナリは説得を諦めるしかなかった。
マルも珍しく頭にリボン、腰にヒラヒラを着けている。
イリスでさえ、白を基調とした可愛らしいマントを羽織っている。
数日間お世話になる間、手持ち無沙汰なので、こちらから申し出たアルバイトだった。
ユキナリも、今日はベストに蝶ネクタイといった飲食店ファッションに身を包んでいた。
「接客は出来るか?」
「まっかせて!」
ハニトラのその表情に感心する。
だが、その後に出てきたハニトラの言葉はこうだった。
「ハムの盛り合わせ銅貨4枚。肉のサンドイッチが銅貨3枚」
ん?
ユキナリが、試しに聞いてみる。
「コーヒーは?」
その途端ハニトラが、「むむむ」という表情になる。
そこに飛び込んできたのは店長の一言だ。
「ふふ。いいですよ、運ぶだけ運んでくれれば。それで随分楽なので」
……そういうものか?
いずれにしろ、突然の俺達のバイト生活が始まった。
ハニトラは想像通り可愛いが、意外にも、人気なのはマルだった。
あのどう見てもマルチーズな白い犬は、器用にも頭の上に盆を乗せ、コーヒーでも水でも食事でも、揺れることなく運んだのだ。
「はっは!魔物のくせに器用だなぁ」
なんて、酔っているわけでもないのに声をかけられた。
そんなからかい半分の人間なぞを相手にするのは時間の無駄だとでもいうのか、マルの方はツンとした顔を崩す事はなかった。
イリスは記憶力がいいのか、仕事をそつなくこなした。
「お嬢ちゃん」
パシッと掴まれたのは、ハニトラの腕だ。
「それ、ここのコーヒーじゃない?」
お客の方も、見たことのない従業員にテンションが上がっているのか、関わり方のおかしな連中が少なくなかった。
「違うよ。もっと前から待ってる人がいるから、あなたのは、まだ」
素直に受け応えるハニトラの顔を見るなり、お客が口をあんぐり開けた。
「か、かわいい……!き、君、うちの事務所で働いてみない?」
なんつー、いかがわしさの客だよ。
「はいはい、ちょっと失礼」
ユキナリが、ハニトラと客の間に割って入る。
「おきゃ〜くさ〜ん?うちの従業員に手、出さないでいただけます?」
「なんだと〜う?」
バチバチと火花が飛ぶ。
そんな風に、最初は大騒ぎだったけれど、段々と客も慣れてきたのか、それともこちらが仕事に慣れてきたのか、アルバイトは順調に進んだ。
ただかわいいだけの回。