14 武器がないと始まらない(2)
「金貨って……、やっぱり銀貨の上の……?」
そう言うと、店員さんは笑顔を崩さずに、
「ええ。もちろん銀貨10枚でもいいですよ」
と言った。
あ、金貨は銀貨10枚分なわけか。銀貨も銅貨10枚だろうな。
今の所持金、銀貨3枚に銅貨が6枚。
「ちょっと、持ち合わせがなくて」
と言いながら、苦笑して見せる。
「予算から聞いておけばよかったかな」
と、店員さんはめげもせず、その手に馴染んだ剣を棚へ片付けた。
宿に泊まらないといけないし、全部使うわけにはいかないよな。
これで……ダンジョンで金になるものが何もなかったら……。
このまままた村へ逆戻りか……?
いや、暗くなっているわけにはいかない、と顔を上げた。
「銀貨1枚、か2枚くらいでどうにかならないですかね」
「ほほ〜ぅ」
今の感じだと武器を買うには少ないんじゃないかと思われる金額を提示した割には、店員さんはいそいそと、一つの武器を持ってきた。
短剣だ。
深い青の柄に、鈍い色の刃が付いている。
「これ、世にも珍しい海竜の鱗で出来てるんですよ」
そそそ、と店員さんが内緒話でもするように耳元で話しかけてくる。
へぇ、と思いながら、手に吸い付くような短剣を眺めた。
「でも、これ、高いんじゃ……」
すると、店員さんは苦笑した。
「これ、試作なんですよ」
「試作?」
「鱗で剣が作れるのか、って思ってね」
「え」
短剣を改めて眺める。
どうやら、鱗を剣にするのは、この世界でも一般的ではないって事か。
けれど、硬そうではある。
店員さんは、声の音量をさらに落とした。
「使い勝手を知らせてくれたら、銀貨2枚で売ってもいいですよ?」
「…………」
心臓が、少しドキドキした。
……騙されてるわけじゃ、ないよな?
「武器は、お兄さんが作ってるってわけですか?」
「あ、」
と店員さんは、言ってなかったか〜なんて顔をした。
「鍛冶屋でしてね。店の商品は全て、僕が作ったものなんですよ」
「なるほど……」
さっきの剣にしてもこの短剣にしても、フィット感のある柄の握り具合が似ているのはそのせいか。
けど、剣の相場なんて知らないし。
「もう少し、考えてもいいですか」
そう言って、店を出たはいいものの。
あっちの剣は金貨1枚と銀貨2枚。
あっちのは銀貨1枚だけど……、ただのナイフ、だよな。
あの弓は金貨3枚か……。
最初の店を思い出さずにはいられない商品ばかりが目に入る。
やっぱあの店、けっこう良心的だったんだな。
思い直し、結局最初の鍛冶屋の店へ戻って来ることになった。
「じゃあこれ、いいですか」
言うと、鍛冶屋のお兄さんは心なしかムニ〜っと笑顔になった。
……おい、嬉しそうだな。
「はい。けど、まず、使ってみてほしいんです」
「というと?」
「まず、木や草、肉なんかを切って、報告してもらえますか。その後も、時々ここへ来て見せてもらえれば」
「なるほど」
そう言いながら、短剣を差し出してくる。
手を差し出したユキナリから、取り上げる様に鍛冶屋が素早く短剣を引く。
「あ、まだあなたのじゃないですからね!?」
「わ、わかってるよ!!」
そして鍛冶屋が取り出したのは、妙に細かい試験項目が連なっている表が書かれた巻物だった。
短剣と出会えたみたいですね!