139 山頂の小屋(2)
「落ち着きましたか?」
先ほどの男性が持ってきてくれたのは、ホットミルクだ。
ありがたく、全員で輪になってホットミルクをいただく。
ハニトラは、あまり熱いや冷たいを感じる事がないらしく、ゆっくりちまちまとだが、美味しそうに飲んでいる。
逆に、マルは猫舌だ。熱いミルクにキュウキュウ言いながら、ミルクをピチャピチャと飲んでいた。
トカゲは大きな皿に入れてもらったホットミルクに嬉しそうに顔をつけている。
イリスの分は、こっそりと俺がいただいた。
ここの店長だというその男は、こんな事は日常茶飯事だとでも言うように、またカウンターに入って仕事を始める。
ユキナリは、空になったカップを持ってカウンターへ向かった。
「ごちそうさま」
「いえいえ。何日でも居てくれて大丈夫ですよ」
と、値段表を見せてくれる。
商魂たくましいとはこの事か。
「いや、落ち着いたら出ていくよ」
カウンターの中には、サイフォンのような道具がある。
この国にもコーヒーなどという飲料がある可能性があるな。
見た感じ、カップやジョッキなどの飲料に関する道具が多いところをみると、ここは喫茶店のような場所なのだと想像できた。
店は思った以上に繁盛しているらしく、次第に他のグループが入店してくる。
「ここから次の町へは遠いのか?」
「いいや、西側なら山を降りるのにそれほど時間はかからないはずだ。そこから真っ直ぐだな」
「ありがとう」
そう言って、カッコよく去っていくハズ、だった。
「は?」
雨上がりで、キラキラしている光の中。
馬車をよく見た一行だった。
それは、なかなか酷い惨状だと言えた。
幌が破れている。
車輪が折れている。
「これじゃ、出発出来ませんわね」
マルが呆れた声を出した。
「まじか……」
気が付かなかった。
けれど、確かにあの調子で走れば、何処かが傷んでもおかしくはなかった。
仕方なく、店内へ戻る。
カウンターに座ると、店長が、
「フッ」
と笑った。
30代くらいかと思ったが、笑うと少し幼さが出る。
「どうかしましたか?」
どうやら、シリアスを装うユキナリに、笑ってしまったようだった。
「ちょっと、馬車が壊れてしまって。ここで修理って出来るかな?」
「どれどれ、ちょっと拝見」
そう言って、馬車を見た店長は、苦い顔をした。
「これは……、部品を買い直した方が早そうですね」
「そうか……。ここで、部品、ここで買えないかな?」
「ええ、それは。けれど、食材の注文と一緒に注文するので、早くて7日。まあ、10日はかかると見て間違いないでしょう」
そこでユキナリは、山の向こうを眺めた。
ここから町まで歩いてもいいが、5人そろって歩くのも大変だろう。馬車を取りに来る都合もある。
「うちならいいですよ」
「え?」
そう言って、店長が差し出してきたのは例の値段表だ。
あー……。
さて、ちょっとしたアクシデント発生ですね!