138 山頂の小屋(1)
山の頂上は、草で覆われていた。
明るい草原だった。
雨上がりというのもあって、辺り一面きらきらと輝いている。
そこには、ポツンと、山小屋が一軒建っていた。
扉に掛かっている看板はよく見えないが、どうやら『OPEN』のようなものが書いてあるらしかった。
そこから、どうやら店舗であることがわかった。
ハニトラが何の躊躇もなく店の扉へ向かう。
おいおいおいおい素っ裸だぞ!?
「ハニトラ!」
と声をかける。
手で引き留めようともしたが、掴むところもないのでそれはやめにしておいた。
「待て待て待て待て」
ハニトラがくるりと振り向く。
その無邪気な顔に、何をどう言えばいいのか。
「流石に……、店に入ってきた客が素っ裸だと問題だ」
真面目な顔で向き合うと、ハニトラがキョトンとした顔をこちらに向ける。
その格好でその顔はやめろ。犯罪的だ。
「とにかく、俺達もこの格好で店に入るわけにはいかないか……」
なんて思ってはみるものの、
「へぶしっへぶしっへぶしっへぶしっ」
このままでは風邪をひいてしまうのは必至だった。
とりあえず、ブランケットをハニトラに巻き付けておく。
分厚い扉に躊躇していると、店の裏手から誰かが出てくるのが見えた。
「お客さ〜ん?」
それは、30代くらいの男性店員だった。
「あ、ちょっとずぶ濡れになっちゃって」
言うと、男性は困った様に笑う。
「すごい雨でしたもんね。今、他のお客いないから、入っていいですよ」
そう言われ、一行は店の正面から堂々と入った。
中は、なかなか広い空間になっていた。
休憩できるようなベンチと、簡易ベッドの様な台がいくつも並んでいる。
その奥には、太い木で出来たテーブルと椅子が並んでいる。
そのさらに奥に飲食店のようなカウンターがあるところを見ると、ここは飲食店なのだろうか。
所々にストーブや衝立があるのがありがたい。
「ここは、山の休憩所。登山で疲れた冒険者や、夜遅くなった場合の簡易宿泊施設なんです」
「ああ、宿泊も出来るんですね」
「その格好じゃどうにも動けないでしょう。ベッドも衝立も、勝手に使ってくれてかまわないですよ」
と言って、男性は店の奥へ。
ハニトラは、ブランケットをベッドの上り投げ、素っ裸でその上に身体を投げ出す。
ぽよんっ。
……流石にそんな格好で胸を振るわせると目で追ってしまうわけだが。
ぼんやりとその揺れを確認しつつ、タオルで身体を拭いていく。
なんとか、それぞれに乾いた服を着せてやり、一息ついた。
ハニトラは、いつもと違うスミレ色のワンピースを着て、少し不満そうにしている。
「いつもの服がいいな」
「残念ながら、いつもの服は乾かし中だ」
ハニトラは、ストーブのそばでひらめくいつもの赤いスカートを眺め、ぷ〜っと頬を膨らませた。
そんなわけで、なんとか安全な場所につきました!