133 二人の時間
「似ていますのね」
わたくしだって特に、ツンとした声が出したいわけじゃない。
けど、ユキナリ様はいつだって頼りないし、ぼんやりしているし、まだまだ弱いし。
こうして町を歩いているだけで得られる情報だって沢山ありますのに、ユキナリ様ったらいつだって観光気分なのだから。
何をどう見るかという感覚はとても大切だ。
そこにある一つのものからどれだけ情報が得られるかという視点が。
そしてその視点は、日々気をつけるからこそ、養われていくものなのである。
町を二人で歩く。
本を集めているという商家に、お邪魔することになったのだ。
お邪魔するのは、文字に弱い後の三人以外のわたくしたち二人。
べ、別に二人でお出かけとか、喜んでいるわけじゃありませんけれど。
そして、その商家に行く道中、町中で、ユキナリ様がとある一つの飾りを見つけたのだ。
まるで、飾りの様な文字。
「ああ、俺の世界で使われてた、アルファベットっていうのに似てるんだ」
「アルファベット……?」
文字だと言われ、その飾りをまた見直す。
「……クルクルとした奇妙な文字ですけれど、言われてみればどれも形が違って……、記号の様ですわね」
「ああ、これは、飾りっぽくしてあるだけで、元々はもっとわかりやすい字なんだ」
「なるほど。じゃあ、それを教えて頂きたいものですわね」
「ああ、もちろん」
ユキナリ様が笑う。
とてもいい笑顔で。
見上げれば眩しくて、ついじっと見てしまう。
そしてやはり、わたくしにはわかってしまうのだ。
ユキナリ様がわたくしに向ける瞳には、恋情の欠片すら入っていない事に。
この、人間とはかけ離れた姿が、原因だという事もわかっている。
せめてもっと背が高ければよかったですのに。
「それでは、その代わりに、この国の構造についてお教え致しますわ。これから行くおうちでは、そういった本が多いとお聞きしますもの」
「ふっ」
と、ユキナリ様がまた笑った。
なんだか笑われた様で、その顔に少しムッとしながら、マルはユキナリを見上げた。
「なんですの?」
「いや、本当マルって、こういう事に関しては生き生きとするよな」
「な……っ」
予想外に見られていて、なんだか足がもつれそうになる。フワフワする。
こんな時間が、続けばよろしいですのに。
わたくしが、ユキナリ様の隣を歩けるこの時間が。
肉球の力が抜けてしまう。
いつだって、ピリッと歩いていたいのに。
マルは、まっすぐ、前を向いた。
「ほら、ユキナリ様、もうすぐ着きますわ」
「あの家か?でかいな」
「ホテル業で人気らしいですわよ」
鼻をツンと上に向けた。
けれどそんな時間は、そう長くも続かない。
「ユキナリ!」
後ろから嫌な声がして、ユキナリ様に抱きつく気配がする。
「うおっ」
なんていう驚きの声をあげるクセに、ユキナリ様はそれを引き剥がそうなんて微塵も考えない。
わたくしには、わかってしまっているのだ。
ユキナリ様が、あの弱弱に対して満更でもないと思ってしまっている事を。
地面に置いてある肉球に、また力が入る。
どうしてどうして、こうなってしまうのかしらっ!
「アンアンッ!!」
声をあげる。
「え、マル、どうした?」
「わたくしを無視しないでくださいませっ!!」
今回はマル回でした!