126 想いは形にして(6)
「だから、その姿をいつでも思い出せるように形にしたいんです。けど、上手く出来なくて……」
自虐的に下を向くジャンに、ユキナリは思う。
確かに、写真や映像で見るのと、リアルで見るのと、迫力が違ったりするよな。
そういう感じなのかな。
「何か力になれますか」
尋ねてみる。
「ジャンは顔を上げ、緩く微笑むと、
「いいや」
と軽く返事をした。
それからしばらく、4人でジャンの仕事っぷりを眺めた。
流石に石を削る作業は途方もなく、なかなか進む事はない。
赤い髪……赤い髪、か……。
この国は、色々な世界、色々な国から集まってできた国だ。
人種どころか種族も様々で、思った以上に魔物と呼ばれる人外の者も多い。
髪の色だって千差万別だ。
赤い髪なんて山ほどいる。
だから、ジャンのモデルになった少女が誰かなんてわからないはずだ。
わからないはずだが、何かが引っかかった。
庭に出て、改めてその像を眺める。
石で出来た壊れた同じ少女達。
上手くいかずに壊された物もあれば、よく見ると途中で失敗したのか作りかけを投げ出されたような物も多い。
けれど、顔がよくわかるもの、服装がよくわかるものを見繕って、改めて見ていく。
服装は、ただ布を被ったようなものだった。
“着ている”と言うと語弊があるような、ただ布を巻いただけ、少しでも動けば、むしろ普通に立つだけで色々見えてしまいそうな服装だ。
そんな服装の人間は……流石に見たことがないな……。
石像だから成り立つ服装だろうか、実際は違ったのでは、なんて想像する。
そして顔は……。
ユキナリは、顔のよく見える像の前に立った。
それは比較的新しい像で、庭の中の、よく陽の当たる場所に捨てられていた。
割れた断面を見ると、わざと割られたのだろう。かなり綺麗に割れている部分もあった。
下半身の部分は草で覆われていてよくは見えない。
けれどそれ故に、むしろ草の中に鎮座すると言えるような気もした。
石像を見上げる。
ドキリとする。
なんだろう。
この世界に女子の知り合いなんてあの3人以外にいるわけはないのに。ふと視界に入る石像の顔が、なんだか知っているもののような気がしたのだ。
かといって、直視しても誰かを思い出せるわけでもない。
何か、引っかかるものを感じ、心臓をモヤつかせながら、屋敷へ入る。
ジャンは、集中から離れ、こちらに笑いかけたところだった。
「ちょうどお戻りになられたようですね」
悪い笑顔ではないと思ったから。
「俺、さ。なんだか、あの像の人間……、知っているような気がする」
言ってしまう。
ジャンがハッとしたのがわかった。
見開いたままの、困惑した、けれど期待した目でこちらを覗く。
「誰だか、思い出せるわけでも、そもそも本当に見た事があるのかもわからないんだけどさ」
それだけ言うので精一杯だった。
「ええ…………大丈夫、です」
ジャンが、捻り出したような声で言う。
「けど、もし……、もし、思い出したら、教えてくださいますか。この像がいったい誰なのか」
泣きそうな声だった。
それに応えられるほどの何かは持ち合わせてはいないけれど。
「はい」
と一言だけ、ユキナリは口にした。
「僕も、その方のマスターの事、出来る限り探してみますね」
というわけで、石像エピソードでした〜。