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125 想いは形にして(5)

 知らない、人間ですね。


 咄嗟にイリスは思う。


 何だろう、この落胆の気持ちは。

 こんなに早くマスターが見つかるわけはないと思っていたのに。

 家にも帰らず、こんな所で石像なんて作っているはずがないと、理解していたはずなのに。

 分かっていたのに。

 分かっていた、はずなのに。


『マスターじゃない』


 そう思ってしまった。


 ううん。

 けれど、何か、小さな情報の欠片だけでも見つけられないかと、一縷の望みをかける。


「あの、ジャンさん、ですよね」

 ユキナリさんが男性に問いかける。

 返事は、ない。


 ジャンさんの手は、大きな石に置かれている。

 まるで、それが愛しい何かであるかのように。

 じっとその石に、視線を注ぐ。

 まるで、そこに愛しい誰かが描かれてでもいるように。


 とはいえきっと、聞こえていないわけでもないだろう。聞く気はなさそうだけれど。


「ゴーレムを作る人を知りませんか」


 イリスは、思い切って訊ねてみた。

 返事は、ない。

 けれど、この程度で、引き返すわけにはいかなかった。

 石のある場所には、もしかしたらマスターの手がかりがあるかもしれないから。


「男性で。別れた時には、60歳くらいだったのですが、今頃はかなりのお年になっていると思います」


 返事は、ない。


「異世界の人間です。技術的なものが好きで、魚のフライが……好きで…………」


 久しぶりにマスターの事を口にする。

 声が揺らぐ。

 ただ思い出しただけで、ただ言葉にしただけで、これほどまでに気持ちを揺らがせるわけにはいかないのに。


 そこで、ジャンさんがイリスの方を見た。


 眼鏡のせいで、どんな表情なのかはよく見えないけれど。


「………………の、……か」


 小さな声。


「……え?」


 ジャンさんが、咳払いをして言い直す。

 きっと、他人と話す事もあまりないのだろう。


「その人と……、別れてしまったのですか」


 その声は、思った以上に柔らかな声だった。

 その人間は、確かにイリスの方を見て話をした。

 きっと異様な姿に見えているだろうに。


「はい……。一緒に住んでいたのですが、ある日から家に帰って来なくなったのです」


「それは……悲しい事ですね」


 静かな会話だった。

 後の3人には、見守る事しか出来ない。


「僕は、とある人を追い求めているのです」


「それが、その方なんですね」


 イリスは目の前の大きな石を示す。

 ジャンさんは、その質問に頷いた。


「そうなのです。たった一度、見てしまったのです。この世の物とは思えない、幻想的な風景を」

 そしてジャンさんは、夢を見るような瞳で、虚空を見る。

「その人は、風景だったのです。将来死ぬ時に見られたら幸せだと思えるような、素晴らしい景色だったのです。燃えるような瞳。流れる赤い髪。ただの少女に見えるその人は、人ではなかった」


 ジャンさんの瞳に涙が浮かぶ。

 ああ、この人も、誰かの面影を追って生きているのですね。


 私が、マスターをいつでも心の中に思い描いているように。

イリス視点でした〜!

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― 新着の感想 ―
ジャンさん、あなたもしかして『魔女』に惚れ込んでないでしょうね(違います)
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