124 想いは形にして(4)
「す……すみませぇん……」
声は小さくなった。
一瞬、雰囲気に負けてしまったのだ。
明かりのない洋館。
少し軋む埃だらけの床。
あまり触られる事のなくなった宝石箱。
人気の無い静けさ。
何に、とは言わないが、“おあつらえ向き“じゃないか。
「明かり……明かり……」
怖さを紛らわせる為、無駄に言葉を発した。
「ハニトラ、そっちに明かりのスイッチ、ないか?」
「こっちにはないね」
……ゴーレムマスター関連なら、壁にスイッチがあるかもしれないと思ったが、そう簡単でもなさそうだ。
家の中で松明をつけるわけにもいかないし。
きっとランプの一つ一つに点ける機能でもあるのだろうと、壁に付いているランプの方へ少しビクビクしながら寄って行く。
ありがたいことにカーテンは開いているので、ランプの所へ行くのにそれほど苦労もしなかった。
茂みで覆われ、曇りきった窓だったとしても、だ。
「コレを点けるには……、あ、あった」
無駄に独り言を言いながら、ランプの脇の小さなハンドルをキュッキュッと回す。
次第に、ぽわっと灯りが灯る。
何事もなく、ほっと息を吐いた。
そうだ。
何かが出るわけがないのだ。
この世界で何かが出る時は、既に相手は魔物だって事だろう。何せ、スケルトンだってゾンビだって魔物として登場する世界なのだから。
そこで次のランプへ向かったところ、間で何かにつまずいた。
「いけね、布か何かも踏んで……」
そこで、足元に顔を向け、焦点を合わせる。
もっさりとした黒い髪。
布の塊の様な服。
人間の形。
そして、それはユルリと動いた。
「ぎゃあああああああああああああ!!」
これでもかってほどの大声を上げ、床に尻餅を突き、ハニトラとマルが戦闘態勢でこちらを向き、イリスが杖でパッと明るい光を放った時、俺はやっとそれが生きている人間だということに気付いたのだ。
「あああああああああああ!!!…………あああ………………あ?」
キョトン、と見ると、眼鏡の人物と目が合った。
「な、なななななななんだ、人間じゃないか」
落ち着いているつもりで全く落ち着けていない。
「は、ははは、は」
笑ってみせるが上手くいかない。
「……ユキナリ様、まず立ってくださいまし」
マルの呆れた声。
「ユキナリ、大丈夫?」
本気で心配しているハニトラの声が心に突き刺さる。
「え、と。ジャンさん、ですか?」
声をかける。
けれど、その人間らしきものは、何の返事もせず、また真っ直ぐに前を向き、自分の世界へと閉じこもってしまった。
その人の目の前には、外にあったのと同じくらいのサイズの大きな石が置いてある。
石像を作るための石なのだろう。
これから掘るのだろうか。
その人間の手は石の表面を確認する様に撫でる。
これがジャンで間違いないだろう。
さて、ジャンさんはどんな人なのでしょうか。