122 想いは形にして(2)
小屋は予想よりも遠い場所にあった。
ほどほどのところの花畑に馬車とトカゲを置いて4人で歩いたのだが、小屋に着く頃にはすでに疲れていた。
小屋は見た目よりも大きかった。そして確かにハニトラの言う通り、扉の右側に看板が出ていた。
『酒場 琥珀』
というのがこの店の名前らしかった。
木製の扉を開けると、ガランガランと大きな鐘の音が響く。
「いらっしゃい!」
大きな声が響く。
こんな場所にあるので中は閑散としているのかと思いきや、冒険者らしき旅人でいっぱいだ。
こんな場所に、思ったより人がいるんだな。
少し驚いた気持ちが顔に出てしまったのだろうか、
「ははっ!驚いたろう、兄ちゃん」
と近くのテーブルから声が掛かる。
「本当だな」
「丁度ギハーロの町で、鉱石系の依頼が増える時期だからな。この時期だけは、ここも人が多いんだ」
「ギハーロの町は、ここから近いのか?」
「ああ。ここはどちらかと言うと、ダンジョンの鉱山に近い場所だ」
「なるほどな」
流れで、その男のいるテーブルの、隣のテーブルにつく。
程なくして、肉が山盛りの皿が5つは並ぶテーブルとなった。
カムフラージュのため、イリスも一緒にジョッキを合わせ、乾杯をする。
どちらかというとここは、ハムのような燻製された食材が多いようだ。予想外にチーズがうまい。
「ジャンはまだ籠ってるのか?」
隣のテーブルの声が聞こえた。
酒場ではどうしても、他人の噂話が多くなるみたいだ。
「ああ、今年はジャンからの依頼も無しだよ」
「何が楽しいんだか。あんな石像ばかり作って」
そこで、ドキリとする。
ハニトラと会話をしていたイリスも、ピタッと止まってしまっていた。
石像。
関係ないと思う。
これはゴーレムの噂じゃない。
思う……けれど。
イリスの様子を見るに、見過ごすわけにもいかなかった。
「石像がなんだって?」
隣のテーブルの奴は、聞けばすぐに教えてくれた。
「この時期、祭に合わせて細工師は大抵宝飾品を作るだろ?ジャンはここのところずっと、屋敷に一人籠もって石像を作ってるのさ。祭の準備もせずにな」
「石像を作るのが仕事なのか?」
「ジャンは本業は細工師なんだが……。最近、ああでもないこうでもないって、同じ石像ばっかり作ってるよ」
「どんな石像なんだ?」
「気になるならちょっと見てこいよ。町はずれの屋敷に店を出してるからさ。籠もってるから出てくるかはわかんねーけどな」
そんなこんなで、その後は、「前に会った時ジャンはジュースで酔っ払っていた」だの「今度はポエムを書き始めた」だのの話から、ジャンが買った店に置いてある箒がいい味を出していて、なんていう話へと移行したので、その話はそこまでになった。
「行くか?」
イリスに尋ねると、押し殺したような声で、
「いいですか?」
と返ってきた。
イリスも、関係ないだろうと、期待してはいけないと、わかっているようだったが、きっと蜘蛛の糸のような希望でも、辿らないわけにはいかないのだろう。
「行くか」
ユキナリは、そう言って笑いかけた。
首都の祭はこの国の一大イベントですからね!