121 想いは形にして(1)
青い空の下を、馬車はゴトゴトと走った。
道の悪さだのトカゲが興奮しすぎだので非常に揺れる事もあるが、誰も酔う事もなく元気よく進んだ。
「あれ?」
「どうしましたの?」
「あれ、なんだろう」
空に、何か飛んでいるのが見えた。
かなり上空のようなのにかなりハッキリと見える。
それほど大きい生物なのだろうと想像がついた。
自分の知識を総動員して見れば、プテラノドンが一番近いだろうか。イメージのプテラノドンよりも、もっと羽が生えていそうだが。
「あれは、鷹ですわね」
「鷹?」
「ええ。大きめの鳥ですわ」
マルは何でもないように言う。
あれが鷹か?
ユキナリは、じっと空を眺めた。
どう見てもプテラノドンでは……?
そこで、ゴッと馬車が真横へ曲がった。
馬車に乗っていた4人が、ダンゴ状になって馬車の中でゴロゴロと転げた。
「な……んだよ……っ」
敵襲か!?
馬車は、数十メートルで止まる。
敵襲にしては静かな外の様子を窺う。
「…………?」
誰も……いない?
周りを一周見てみたが、馬車以外に何か生き物らしきものはいなさそうだ。
見えるのは、見晴らしのいい花畑ばかりだ。
「トカゲ?」
呼びかけると、
「キューイ!」
と明るい声がした。
全員で外へ出る。
「何もいないね」
警戒して出てきたハニトラも、周りを見て気を抜く。
「トカゲ?誰か居たのか?」
振り返ると、トカゲは、パクリ!と花にかぶりついたところだった。
「トカゲ……。もしかして、その花を見て走っていったのか?」
「キュゥ!」
「……お前には、もうちょっと馬車の引き方教えておいた方がよかったな……」
呆れつつも頭を撫でてやる。
「綺麗な場所ですね」
イリスは気に入ったようだった。
「……確かに、綺麗な場所だな」
見渡せば、視界全部が花畑だ。
まるで、絨毯のように。
マルが、トカゲの口からはみ出ているものを見て、
「これはカモミールですわね」
と言えば、ハニトラが、
「確かに美味しそうだね」
と足元のカモミールを摘み、食べてみる。
「お、おいしい!」
こちらはこちらで気に入ったようだ。
ガバッとハニトラが服を脱いだ。
ぽよん。
「おいおいおいおい」
開放感の表し方がおかしいだろ。
「服は着てくれ」
「誰も居ないのに?」
「誰も居なくても、だ」
「はーい」
不満そうにするが、大人しく服は着てくれる。
遠くに山が見える。
俺達が行くのはあれよりも右側にあるはずの森、か。
先はまだまだ遠そうだ。
ほど近くに、大きな小屋が見えた。
「あそこ、行ってみるか」
「食堂だね」
とハニトラが何でもないように言う。
「…………?」
食堂の要素なんてあったかと、小屋をじっと見つめる。
「ほら、あそこに書いてあるよ。扉の右側の……」
とハニトラが指で示してくれる。
もし、扉の右側に看板があったとしても、文字なんて点なんだが……?
「ハニトラ、お前、めちゃくちゃ目がいいんだな?」
「違うよ、文字を教えてもらったからだよ」
……何が違うんだか。
「まあ、行ってみるか」
一行は、食堂へと向かう事にした。
鷹と言っていますが、翼を開けば7mくらいでしょうか。見た目もプテラノドンの方が近いんじゃないか、というのはユキナリの談です。