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118 盗人事件(5)

 それから数日。

 マルは、結局その場から動くことはなかった。

 それこそ、雨の日も風の日もってやつだ。

 幸いな事に、トカゲはずっと馬車のそばにいた。周りはそれほど人もいない場所だ。

 暴れるでもなければ目立つこともない場所だったので、マルもじっとトカゲを見ているのにそれほど苦ではなかった。

 馬車の下にいれば、雨に打たれる事も風に晒される事もなかった。


 その日は晴れていたので、ユキナリは馬車で例の本を読んでいた。

 ハネツキオオトカゲの項目を読んでおけば、今後のハネツキオオトカゲと共にある生活で役に立つのではないかと思ったのだ。


 ユキナリは、一人、馬車の中で顔を上げた。

 偶然だが、今日はその場所からトカゲがよく見えた。


 あれ?


 光を反射したその身体は、確かにピリピリと細かくヒビが入っている。


「本当に……脱皮するんだな」


 誰に言うでもなく一人呟く。


 その青い空の下で光を反射する鱗に、脱皮した姿はさぞ綺麗だろうと思う。




 その日から、なんとはなしに馬車で時間を過ごす事にした。

 なんとはなし、とは言うものの、見られればいい、と思ったのだ。その、トカゲの脱皮を。

 馬車の下でじっと目を凝らしているマルの邪魔にならないよう、本を読むなりして静かに過ごす。

 手元に置いていたビスケットがなくなる頃、ドーナツを持ったハニトラが馬車にそっと乗ってきた。

 何か言いかけるハニトラに、しーっと指で静かにしていようとジェスチャーする。

 ハニトラは、にぱっと笑顔で同じように唇に指を当てる仕草を返すと、ユキナリにひっつくように隣に座った。

 暫くして、マルの食事を持ってきたイリスが、馬車の中に二人が乗っているのを見て、ここに居たのかと驚く。

 二人で手招きをすると、イリスもユキナリの隣に大人しく座った。


 ハニトラもイリスも黙っていたが、じっとトカゲの方を見ていた。

 もうすっかり3人とも、マルが見たいものがどんなものか、トカゲがどんな風に脱皮するのか期待に胸を膨らませていたのだ。


 見逃すまいと、全員で馬車にあったビスケットや水で過ごすこと2日。

 その日、トカゲのヒビがパキパキと、より一層強く輝いて見えたような気がした。


 空気の色が、少し違ったように見える瞬間があった。

 そこに居た誰もが、息を呑む瞬間だった。


 よく晴れた、青い空の下での事だ。


 パキン、と大きな音がした。

 何かが割れるような、そしてその割れたものは空気なんじゃないかと思うような、そんな音だった。


 トカゲが、その顔を、何かから抜け出す様に力を入れた。

 すると、その身体を置いて、トカゲが動いた様に見えたのだ。


 トカゲは前へと歩く。

 身体の形は確かにトカゲが居た場所に残っていた。


「う……わ…………」


 思わず声に出す。

 ユキナリだけでなく、ハニトラもイリスも、その場から目を離せずに、じっとその抜け殻を見つめていた。

 きっと、馬車の下に居るマルもじっと見ているに違いなかった。

さて、とうとう脱皮ですね!

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