116 盗人事件(3)
マルがトカゲの腹辺りに頭を突っ込む。
何をしているのかと思えば、臭いを嗅いでいるようだ。
ガフッ、ガフガフガフなんていう声がする。
頭を出したマルが、
「間違いないですわね」
なんて言う。
見た目だけじゃなく、やっぱり鼻がきくんだな。
「ギュイップ」
そんなトカゲの鳴き声を聞いたマルが、
「ふ〜む」なんて声を出した。
その表情があまりにも真剣なので、
「どうかしたのか?」
と思わず声を掛けた。
「この状態、本で見たことがありますわ」
「この状態?」
「ええ。確か、この本の、」
と、マルが馬車から一冊の本を咥えてくる。
その姿はまるで、朝、新聞紙を自慢げに取ってくるワンコのようだ。
「この辺りに」
言いながら、ドサッと地面に放り投げた本に前足をつくと、器用に肉球でページを捲る。
扱いは雑なので本は痛みやすそうだが、あの前足を考えると、器用だなと感心する程だ。
「ありましたわ」
その本は、動植物に関する研究書のようだった。
中は、細かい文字や細かい絵で、動植物に関する研究が載っている。
絵といっても子供が見るようなものではなく、まるで医学書か何かのようだった。
開かれたページはまだ全てが解明されていないハネツキオオトカゲを観察したもの。
フィールドワーク……といっても、気付けば群れごと居なくなるハネツキオオトカゲの観察は難しく、山から離れ、土と一体化し、森の中の小さな小屋で寝泊まりしていた研究者達の研究結果が主なものだ。
マルは、本に書いてあるものと目の前のハネツキオオトカゲの様子を見比べているようだった。
「そう……。これ……。これですわ…………」
そのページは、ハネツキオオトカゲの観察日記のようだった。
『私は本日、おかしなハネツキオオトカゲに遭遇した。サイズは他のものよりも小さめだろうか。岩ばかりの山の上を、ノタノタと群れから外れてその個体は歩いていた。羽がピクピクしている。身体の小ささや身体が重そうな点から、私はその個体は病弱なのだろうと予想した。近づいて見る。時間をかけ、ゆっくりと。するとどうだろう。その個体はどうやら食事をしていたらしいのだ。お腹いっぱいに肉を食べている。雑食だという説は本当だったのだろうか、口の端から木の実のものらしい紫の汁が滴っている。
腹が減ったのか?それとも精神的な病か何かだろうか。ハネツキオオトカゲの知能はかなり高いという説がある。精神を患うことがあってもおかしくないのではないか?
どうしたのだろうかと、それから何日も観察した。
雨の日も。風の日も。
幸いな事に、その個体はそのあたりからあまり動く事はなかった。やはり体調が悪いのだろうか。』
次回に続きます!