115 盗人事件(2)
犯人は仲間の中にいるとしても、ここは変な罵り合いになる前にサクッと解決しなくては。
イリスは食事をしない。
イリスが食事をしない事は、重要なポイントになるだろうか。
いや待て。
食べないが故に、食料が無くなっても困らない……。
もし何か企てがあるとしたら……。
イリスを容疑者から外すのは早計だな。
ハニトラとマルは肉好きだ。
それも二人ともが魔物。
うっかり生肉を食べてしまってもおかしくないのでは?
まさか無意識に生肉を……?
もちろん俺ではない。
いや、夢遊病じゃないなんて、言い切れるものだろうか。
う〜〜〜ん……。
「ギュイップ」
「ん?」
聞き慣れない鳴き声がした。
いや、正確には、聞き慣れているはずのハネツキオオトカゲの鳴き声がいつになく苦しそうな鳴き声になっていた、だ。
嫌な、予感がする。
馬車の向こう側に居るハネツキオオトカゲの様子を窺わなければと、顔を上げたその時だった。
目に入ってきてしまった。土の上にポロポロと転がる肉片が。
うあああああ………。
まさか。まさかな。
自分を落ち着かせるけれど、どう考えたって一番怪しい容疑者が、この先に居る。
肉片を辿りながら、馬車の反対側まで行く。
そこへ行くと、丸々と太ったハネツキオオトカゲがいつも通り地面に居た。
……いや、うちのハネツキオオトカゲはこんな太っていたか?
まるで、一回り大きなハネツキオオトカゲが、うちのハネツキオオトカゲを丸呑みしてしまったかのようだ。
けれど、
「トカゲ?」
と呼びかけると、その丸々と太ったハネツキオオトカゲが、
「ギュイップ……」
とまさに身体が重そうな声で返事をした。
ソロソロと顔を見る為に前へ回り込む。
顔を見ると、いつもと同じ目をしたトカゲが、言い訳など出来なさそうな肉片をつけた口をしていた。
「…………」
何も見なかったかのように、ユキナリは黙って馬車へ取って返す。
馬車を後ろから覗くと、案の定、ハニトラとマルがムニムニとした取っ組み合いを始めていた。
「ちょっと聞いてほしい」
ユキナリの声はそれほど大きくは無い声だったけれど、3人ともがふっとこちらを見た。
冷や汗ダラダラの顔で、残念そうに言う。
「犯人が、分かった」
「犯人が……!?」
ハニトラが目を見開く。
マルがハニトラを押し退け、キッチリしたお座り姿で、
「この中に犯人が居るんですのね……?」
イリスが息を呑むようにこちらを凝視した。
3人の視線を浴びながら、俺はもう、言うしかなかった。
「犯人……、トカゲだった……」
「へ……?」
3人で、トカゲを取り囲む。
「本当にこの子が……?」
と、イリスは信じ難い様だったが、その口と腹を見れば一目瞭然なのだった。
「あ〜……、トカゲ?」
「ギュイ?」
「お前もしかして……、買ってあった食料食べたか……?」
「ギュ、ギュギュゥ〜イ……」
よだれを垂らしながら、目を逸らすその仕草は、もう隠せてもいないものだった。
犯人はハネツキオオトカゲくんでした。