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110 森へ(1)

 南東に進路を取った俺達だった。


 この国は、多少横長ではあるものの、日本と同じく南の方が若干暖かい気候になっている。

 俺が居たペケニョの村は、国の東端。

 そこから北側にある海に寄り、国の中央より多少北寄りにある首都に向かおうと思っていたのだが、首都よりもずっと南にハニトラの故郷があると聞いて、そこへ向かう事になったのだ。


 ガタガタと馬車が揺れる。

 御者のような役割が必要なのかと思っていたが、ハネツキオオトカゲは、目的地を地図で示しただけで、

「キューイ!」

 と機嫌の良さそうな声をあげて俺達をそこへ連れて行ってくれた。

 この知能レベル、高すぎないか?

 みんなはそういう動物だから、というが。

 地図が読める動物ってどんなだよ……。


「この辺りですわ」

 馬車の中に広げた地図を、マルが肉球で指し示す。

 肉球がどこを指しているのか微妙ではあったけれど、どうやら森の中を示しているらしい。


 国の南中央に、大きな森が描かれている。

 今までに見た森の比ではない。

 大きな森だ。


 確かに、この森の中に何か村の名らしきものも書き込まれているが。

 ハニトラの故郷であるチュチェスの村の名は書かれていないようだ。


「この森の中に村があるのか?」

「ええ」

 と言いながら、マルの前足が動く。

「弱弱弱弱さんの村は、あまり外に出ない村ですから。他人に村の場所や村の名を言う事も、あまりありません。人間の地図には書かれていないでしょう」

 マルの鼻が上を向く。

「けど、魔物の森と呼ばれているこの森。わたくしの村もこの辺りですの。見た事がありますのよ。弱弱弱弱さんの村。弱弱さんを見て、一目でわかりましたわ。あの種族だって」


 その言葉を聞いて、ハニトラが銀色の髪をくしくしといじる。

 いじった髪は、ちゅるんとまたおかしな癖っ毛に戻る。

 あの銀色の髪が、種族特有のものなんだろうか。




 とはいえ、すぐ着くというわけにもいかなかった。

 10日はかからないんじゃないかというのがマルの見解だ。


 2つほどの町に寄りながら、けれど基本は野宿になりそうだった。


 結局、俺はハニトラを旅に誘う事が出来ずにいた。

 出来るだけ二人きりで話せる場所が必要だったのだけれど、馬車の中にしろ野宿にしろ、どうしても全員集まってしまっている現状、なかなかそういう機会に恵まれない。


「む〜〜〜〜〜」


 ……ハニトラの視線が痛いのだが。


 気まずい空気から視線を逸らす。

 そして、気まずい空気から逃げる様に、場当たり的な会話をした。


「あ〜〜……、イリスはさ、本とか読むか?実は何冊か持ってるんだけど」


「あ、はい。難しい本はわからないとは思いますが、本自体は嫌いではないので」


「じゃあ、こんなのどうかな」

 と、イリスのマスターの隠れ家から持ってきた本を見せる。


「あら」

「これ、イリスのマスターの本なんだけど」

「そうなんですね」


 どうやら、島の隠れ家の本はイリスも知らないものらしかった。


「これは読めると思います。あと、これと……」

 と、本をパラパラとめくっていく。


 横顔からは、どういう感情で本を見ているかわからないけれど、声からして機嫌は悪くなさそうだ。


 けれど、イリスが本を読み始めてしまったので、その話はそこで途切れてしまう。


 チクチクと、ハニトラの視線が刺さるみたいだ。


 カチカチと、ぜんまい仕掛けのおもちゃの様に首を曲げ、ハニトラの様子を窺う。

 そして、また、その刺さるような視線から逃れる様に、視線を泳がせるユキナリなのだった。

森へ向かって馬車を走らせましょう!

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