109 旅路(5)
パチパチと、火が爆ぜる。
ハニトラが捕ってきた肉が焼け、肉汁が滴り落ちる。
美味しそうな匂いが漂っているそんな森の中で。
俺は、
「これから、目的地を南東に定めようと思う」
と切り出した。
全員がこちらを向く。
ハニトラとトカゲが同じようなキョトンとした目をしているので、なんだか笑いそうになってしまう。
「ハニトラの故郷がわかったんだ」
「あ……」
マルが知っていそうなのは、ハニトラも気付いているはずだった。
思いの外困惑した顔をしているのは、やはり置いていかれると思ったからだろうか。
「わかりました」
とイリスの明るい声がした。
マルは「フ〜ン」と大きな息を鼻から漏らす。
トカゲは、
「キュイ!」
と気合いでも入れるかのような鳴き声。
ハニトラは、最後まで何も発言する事がなかった。
ただ、気が付くと焼いた肉の骨すら残っていなかったので、どうやら骨ごと肉を頬張っていたようだ。
火を起こしたまま寝られるヤツから寝ていく。
離れたところで、ハニトラが地面にペタリと座り、空を見あげていた。
銀色の髪が、ゆるゆると風に揺れる。
話しかけないわけにもいかなくて、ちょこんとそばに座った。
「ハニトラ」
夜更けの、それでも暖かな空気の中で、声はスッキリと響いた。
音もなく振り向いたハニトラの瞳が、青く透き通っているのを見る。
「私、見張りするから、まだ大丈夫だよ」
「ああ」
少し微笑む。
「あのさ、」
そんなに落ち込まないように、『村へ行ったあと、改めてついてきて欲しい』なんて事を言えばいい。
ただ、それだけだった。
それなのに。
「………………」
どうにも思ったように言葉を作る事ができない。
なんか…………緊張するな。
えっと…………。
冷や汗が流れる顔で、作った笑顔のままハニトラの顔を見るので精一杯だった。
いや、こんな緊張するはずじゃなかったんだけどな。こんな緊張する話でもないし。
「あの、さ……」
覚悟を決めて、言いかけた時だった。
ふにん、と背中に触るものがあり。
「ぎゃああああああああ!!!!」
なんて、必要以上に驚きの声をあげてしまう。
端的に言うと、背中に当たっているのはまるっこい肉球だった。
「うるさいですわね」
いや……。やましいことがあったわけじゃないんだ。
「お前が音も無く近寄ってくるからびっくりしたんだろ」
ちょっと不満げに言う。
ハニトラが、俺の横で思いっきり頬を膨らませ、不快の態度を示す。
冷めた目で、マルが前足を振った。
「そんな話も出来ないなんて、呆れてしまいますわ」
「いや、お前が邪魔してきたんだからな」
そんなわけで、結局俺の勢いは根こそぎ取られてしまったというわけだ。
「あ〜……、ハニトラ、また今度な」
なんでもない言葉が口に出せない自分に、少しだけ驚いたり。
そんなこんなで、結局翌朝、何も言い出せないままに馬車に乗る事になるのだった。
マルの心境もなかなか複雑なんですよ。