108 旅路(4)
「動けますの?」
マルが苦笑する。
回復の魔法をかけてもらったとはいえ、そこから気絶する様に眠ってしまい、気が付けば、星が輝く夜だった。
野営地から離れ、二人並んで、地面に座る。
マルは、ちゃっきりとしたお座り姿だ。
「聞きたい事、あってさ」
「なんですの」
「ハニトラの、故郷って、どこにある?」
「…………」
マルが黙りこくる。
「そんな話ですの」
マルの耳が、風にそよぐ。
「この国は、少し東と西に伸びてますでしょう?ここが西の端。首都は中心の少し北寄り。あの弱弱の故郷は、首都よりもずっと南にあたりますわ。ここからなら、南東寄りですかしら」
「なるほどな」
「……そこへ行きますの?」
「ああ。先にそこへ寄ろうと思う」
「じゃあ、弱弱さんは、そこへ置いていきますの?」
ユキナリは、キョトン、とマルの横顔を見た。
なんだか、マルの声が、少し沈んで聞こえたからだ。
てっきり喜ぶと思っていたのだ。あれほど言い合う仲だから。
「そこへ行ったら、また改めてハニトラを誘おうと思う」
「そうですの。それは残念ですわ」
マルは、「フン」と鼻を鳴らす。
ツンデレか何かなのか?
「よかったな、離れなくて済みそうで」
マルは、頭をブンブンと振る。
垂れ耳がパタパタと羽ばたく。
「あんな人、いなくて構いませんわ」
もしゃもしゃになった毛を気に留めもせず、マルは星空を眺める。
「けど、まあ、そちら側に行くのは悪くないと思いますわ」
「悪くない?」
「ええ」
マルが真剣な顔になる。
「ゴーレムの目撃情報、国の南側が多いですわ。弱弱さんの村の近くでも目撃情報があったはずですの。イリスさんのマスターの有力情報があるなら、そちらか首都だと思いますわ」
イリスのマスターについては、この辺りで探す必要がある、というのは俺の意見だったが、近くの町にすら変人として名が通っており、まともに顔を見た者も居なかった。
それも、ここいらに住んでいたのは数十年前だ。
存在を覚えているものさえ少ない。
写真もない状態で、最後に見たのはいつか、どこへ行ったのかを聞き込みでなんとかするのは少々無理があったのだ。
それよりも、この国のゴーレムの目撃情報を追った方が早いのではないかというのがマルの意見。
ゴーレムの目撃情報がある限り、家の近くで倒れたとは考えにくいのではないかというのだ。
確かにそうかと、ゴーレムの目撃情報を追っていく事に決めたのだった。
「なるほどな。じゃあ、南東へ行きつつ、ゴーレムの目撃情報を追うのがいいわけか」
「首都へ行くのが、遅くなってしまいますけれど」
「……元々、首都へ行って魔女の情報があるかは一つの賭けだからな。首都へ行く事は重要じゃないよ。手掛かりの一つってだけだ」
「ですわね」
マルの耳が、風になびく。
ふいっとこちらを見たマルは、気のせいかもしれないが、微笑んでいるような気がした。
それぞれの目的地を巡っていく事になりそうですね。