106 旅路(2)
「家族……とか、友達とかは?」
「母はいる」
その言葉はなんだかつっけんどんだった。
なんだか……故郷の話をしたくない、みたいな。
それは、父親に関する事なんだろうか。それとも。
「けど、」
ハニトラのまつ毛が伏せられる。
「心配はしてる」
「心配?」
「あの人達は、人間の前に出ないの。種族も生活している場所も、人間には出来るだけ明かさない。私が誘拐される事になったなら、村になにかあったのかも。母が……心配。それに、村のみんなも」
ハニトラは泣きそうだった。
「家族だもんな」
そう呟いた俺の言葉を、ハニトラは否定した。
小さな声で。
「家族じゃない」
「え?」
「言葉を交わした事もない。だた、一緒に居ただけ。同じ種族だから」
「……そう、なのか?」
「けど、気になるの。同じ種族だから。母の家族だから。どれだけ私とは関係なくても」
「そ、か」
それで……。
それで、黙って居なくなったら、それもハニトラを一人にするかもしれないって事か。
黙って枝を拾う。
細いもの。太いもの。
できるだけ乾いているものを。
パキリ、と枝の折れる音が響く。
二人で枝をテキパキと拾っていく。
ユキナリのそばで、ガサリ……、と木の陰から音がした。
ドキリ、とする。
「何か、いるか……?」
この世界には、あまり小さな生き物はいない。
小さな虫や、小さな動物は見たことがなかった。
ただのウサギやリスであっても。
だからそこに何かが居るんじゃないかないかなんて、警戒する事は怠っていた。
ズ……。
出てきたのは、ヘビだった。
それほど大きくはない。
けれど……、その攻撃的な目で、安心してはいけない事を知る。
とりあえず短剣を手にする。
「精霊モスよ。俺達を守ってくれ」
短剣が、薄青く光る。
これくらい、大丈夫だ。俺一人でなんとかできる。
一つ息を整え、ヘビと対峙する。
グワッと飛びかかってきたヘビを、土の盾で叩き落とした。
そのまま、短剣を振るう。
水竜の鱗から出来た刃は、空中にいるヘビすらも一刀両断にした。
よし……!
「ユキナリ、大丈夫!?」
ハニトラが飛んでくる。
「大丈夫だよ」
少し誇らしげに返事をする。
それは、気の緩みだった。
グワ……ッ!
と死角から飛んできたのは、さっき戦っていたヘビとは、別の個体のヘビだった。
「まだいたのか……!?」
短剣で叩き落とすのはそれほど遅くなかった。
むしろ、悪くない対応だったと言えるだろう。
けれど、その拍子に、ユキナリは左足のバランスを崩した。
「ユキナリ……!」
そして運の悪い事に、足を滑らせた先は崖だった。
「な……っ!」
なんでこんなところに崖があるんだよ……!
ガ……!ガガガガ……!
と、崩れた足場の岩と一緒に、ユキナリは滑り落ちていった。
これでもユキナリくん、強くなってきた方なんですよ!