105 旅路(1)
ガタゴトと馬車が走る。
晴れた空の下、一本道の上を。
特別曲がり角もなく、特別見えるものもない。
今までの経験からして、ここから1時間も走れば次の町の気配がしてくるんだろうが、まだそんな事もない。
俺は、ただ前を見ていた。
首都に向かって走る馬車の上で。
決めないといけない。分かってる。
ハニトラを、この旅に連れて行くかどうかだ。
きっと、魔女に会うまででそれぞれバラバラになるだろう。
マルは世界を研究しているという。きっと、行きたい場所が違う方向になれば離れて行くはずだ。
イリスはマスターの痕跡を探している。こちらも、マスターの事が落ち着けば、自分の道を歩く事になるはずだ。
ハニトラだって。
家に帰れれば、一緒に居る理由はない。
誰もいなくなれば、トカゲも放してやって、俺は一人で魔女と対峙する。
俺達は、魔王を倒す勇者パーティーでもなんでもないんだから。
ここまで一緒に来れた事には感謝している。
けど、最後の魔女にまで辿り着くのは、俺だけでいい。
魔女の前に一人放り出されるハニトラの事を思うと、それは出来ない。
じゃあ、家に置いて立ち去るのか?
どちらかの決心をつけなければ、マルにはハニトラの故郷の場所を聞く事なんて出来そうになかった。
まっすぐ前を向く。
青い空に浮かぶ雲は薄く、どこか飛んで行く鳥のようだった。
ガコン。
と、馬車が歪んだのは、まだ次の町の気配もしない場所での事だった。
「なんだ?」
ユキナリが様子を見に外へ出る。
特に誰も居なさそうだが。
見ると、一つのタイヤが割れていた。
「ああ……」
重い荷物を運べるはずの馬車。
使い込まれてはいるが、見た感じ老朽化という言える古さではない。
もしかして。……と、思わずイリスの方を見る。
だとしたら、もっと頑丈なタイヤが必要そうだ。
「タイヤが割れてる。新しいタイヤに変えたいが……。とりあえず今日のところは、この辺りで野宿だな」
「はーい」
「キューイ」
「お肉はありますの?」
「火起こし手伝いますね」
と、4人の返事は特に嫌そうでもない。
ガラガラと残りのタイヤで馬車を転がし、なんとか森の中へ入る。
空は、だんだんと暗くなって行くところだ。
「暗くなる前に火を起こしたいな」
森の中で枯れ木を集める為、ユキナリはハニトラと森の奥へ向かう。
「ハニトラ」
「どうしたの?」
ハニトラは、拾った木が気になるのか匂いを嗅いでいる。
「ハニトラの故郷ってさ、どんな所なんだ?」
「森だよ」
「森?」
「そう。ここよりもずっと空気が澄んでて、土の上に寝転ぶと、ずっと綺麗」
「いい所なんだな」
故郷を思うハニトラの横顔は、とても綺麗だ。
「いい、ところ……」
そこで、ハニトラが言い淀む。
「いい、ところでは、ないけど」
いい所じゃない?
なんで……と思ったけれど、父親を亡くしてるんだったな。嫌な思い出もあるってことか……。
5人の道はどうなるのでしょうか。