104 魔法というもの(4)
それから6匹ほどのカバを倒した。
1匹2本。
14本の牙なので、金貨が1枚、銀貨が4枚ということか。
5人分の収入だと考えても、なかなか悪くないと思える。
その日は、パーっと森の中で飲む事にした。
酒場だと、マルやイリスが落ち着けないし、トカゲは入れない可能性すらあるからな。
パチパチと爆ぜる焚き火の周りを囲う。
肉を焼き、マシュマロのような菓子もあったのでそれも木の棒に刺して焼く。
肉を焼くハニトラが、歌を歌うのが聞こえた。
こんな森の中で聞けば、妖精なんじゃないかってくらい可愛い声ではあるんだが。
歌が……、
「カバはおいしいかなぁ〜♪どんな味なのかなぁ〜♪」
なんていう歌なせいで情緒は台無しだ。
おいおい。この肉はカバじゃないぞ?
普通に肉屋で買った牛の肉だ。
それに溶けたチーズをつける。
味は十分。
なかなかにご馳走だった。
気になるのは、やっぱ飯も食えないでマルと魔法について話しているイリスの事だ。
他のメンバーと違って、食事は必要としない。
服も必要としないとなれば、一体どう労えばいいんだ?
座っているイリスには表情というものは無く、感情がある事は分かるのに、今の感情が分からない。
なんだか、歯痒さを覚える。
結局、悩みに悩んだ2日後。
「イリス」
ユキナリは、宿の窓辺で椅子に座り、夕陽を眺めるイリスび呼びかけた。
「はい」
イリスが顔を上げると、その石の目が、夕陽にキラリと光る。
「これ、返すよ」
差し出した手に持っているのは、あのゴーレムマスターが住んでいた部屋から頂戴してきた宝石類だ。
イリスがそれをじっと眺める。
どうやら、ピンと来ていないようだ。
「これ、お前のマスターの部屋から持ってきたものなんだ」
言ってしまうと、
「あ……」
イリスの口から小さな声が漏れた。
「それは……、マスターがゴーレムを作る為の資金稼ぎに集めたものです。イリスでは、マスターの別の家には辿り着けませんでした。それは、イリスがお世話になる代わりにあなたがもらってください」
「それは、悪いだろ」
イリスからは返事はない。
この宝石を持った手を見ているはずなのに、正直どこを見ているのかわからない。
……じっとする事で逃げるなんて、ちょっとズルいんじゃないか?
宝石を眺める。
大小さまざま。
正直、半分は売ってしまったのだが、それでも、かなりの金になるはずだ。
いや、これは宝石だった。
その宝石の中の一つ以外を、今まで入れていた袋に戻す。
一つだけ残した宝石。
それは、紫水晶のブローチだった。
大きな石の後ろに、ピンが付いている。
「じゃあ、せめてコレを」
マントの首元を止めるのにつけてやる。
「…………」
イリスは黙ったままだった。
けれど、ユキナリがその姿をじっと見て、まあ、悪くないかと思ったその時。
「……ありがとうございます」
と、礼を言ったのだった。
イリスも可愛いですね!




