103 魔法というもの(3)
ユキナリが短剣を構える。
それに呼応するように、他の4人が戦闘態勢に入る。
こちらを向いた3匹のカバが、大きな口を開けた。
……この開けた土地……。
長閑でいいかと思ったけど、戦闘向きじゃないな。
遠くのカバ達にまでこちらの存在が丸見えだ。
群れの端に居るとはいえ、囲まれたら終わり。
ズンズンズンズン、と1匹のカバがこちらに走って来る。
「行くよ!」
最初に飛んだのはハニトラだった。
カバの目を目掛けて飛んで行く。
その攻撃は、思いの外、激しくカバにヒットした。
その効果はなかなかのものだ。
けれど、その効果がなかなかのものだったらしく、カバが激しく暴れ出す。
「うおっ」
飛び散る泥を避けるのに、土の盾を前に構える。
ハニトラの盾になる為に、川に飛び込む。
泥水の川。
川の中を動くのは大変だろうが、土の加護に水の加護、ふたつも持っているのなら問題はないだろうなんて、緩い事を考えた結果だった。
「…………!?」
動けない……!
思った以上に川の中は泥だった。
ズブズブと足を取られる。
自分の体重で下へ下へと沈んで行く。
目の前に大きなカバが迫るが、トカゲが飛び出し、尻尾パンチを決めてくれた。
「トカゲ……!」
とはいえ、動けない事に違いはない。
「や……ば……!」
がむしゃらに手を伸ばした先、何かが俺の手を掴んだ。
「ユキナリ……!」
手を伸ばしたのは、やはり泥に足を取られているハニトラだ。
ハニトラも動けないなりにユキナリに手を伸ばし、引き上げてくれる。
ユキナリの右足が泥から上がる。
かといって、どこか這い上がれる場所があるわけではなく……。
前へ倒れたところで、何かに受け止められた。
柔らかな、雲のようなもの。
「何……」
それは、イリスの出した雲だった。
「掴まってください!」
それは、まるで雲みたいな見た目の、けれど足を踏みしめられる程に硬い不思議なものだった。
「サンキュー!これでいけそうだ!」
まずハニトラを引き上げ、雲の上に立たせる。
「うわぁ……!」
と感嘆の声を上げたハニトラは、そのまま足を踏み込み、再度暴れるカバへ突進する。
ユキナリは、一歩二歩と歩いてみて、初めてその足元の小さな雲が、自分が踏み出した先へ一緒に動く事に気付く。
「なるほどな」
怖々と一歩、二歩。
速度を上げて三歩、四歩。
最後には、空中を駆け出し、暴れるカバへ短剣を叩きつけた。
「ぐぎゃああああああ!」
と、カバが声を上げる。
そんな猛攻を何度か繰り返す事で、なんとかカバを一匹倒した。
「フン!」
と鼻を鳴らしながら、マルがカバから牙を切り取り、その背に背負っていた鞄に放り入れる。
「なかなか悪くない収穫ですわ!」
「ああ」
ユキナリは、泥だらけになった服にガッカリしつつも、カバと対峙する。
「よし、この調子でいく!」
全員で飛びかかれば中級の魔物くらいは倒せそうですね。