10 冒険者ギルド(1)
「はい。あの、ここで、冒険者になれるって聞いたんですけど」
おずおずというと、案内係の女性はにっこりと笑顔になった。
「冒険者登録でしたら、カウンターでお受け致しております」
お?
可愛い笑顔だった。
もしかして、異性に好かれなくなる呪いなんて、幻想だった可能性ある?
「あの……。戦う能力を上げる事って、出来ますか?」
「戦う能力、そうですね」
女性は、思案する顔なのだろう、目をキョトキョトと動かした。
「もちろん、どこかの先生に付いているのが一番なんですけども、実戦を経て強くなっていく方も沢山居ますよ。丁度、この間発見された低ランクダンジョンが解放されたばかりですし。判定では、初心者向け。子供のお使いでも使われるレベルです」
子供のお使い……。
いくら習い事をしていたとしても、流石に子供には勝てそうな気がする。
「武器とかってどこかで買えますか?」
周りの冒険者達を見れば、みんな剣や弓を携えている。
それにあれは………………、杖?
待て待て待て。
やっぱり魔法があるのか?
思い浮かべる。
俺が、何やら呪文を叫びながら大きな火球を魔物にぶっ放す。
そうだ。
今出来なくても、チートスキル的なもので魔法が使えるとか、魔法の才能はあるとかあるかもしれないじゃないか。
これは、ちょっと期待できるな。
「武器は、この建物を出て、建物の左の通りを曲がって行くのが近いですね。武器屋街がありますよ」
「あ、ありがとうございます」
「冒険者登録にはお金が掛かりますが、今登録していきますか?」
なるほど?
まあ、武器を買って冒険者登録する金が無くなってしまえば、ダンジョンに潜る事は出来なくなる。
ここは、登録が先の方がいいか。
「そうですね。お願いします」
「わかりました。ダニエルー!」
そこで、お姉さんは大きな声で別の案内係を呼んだ。
「え、お姉さんがやってくれるんじゃないんですか?」
そう言うと、案内係のお姉さんは、
「私は、ここの担当でして」
とニッコリとした。
そうかそうか。担当なら仕方がない。担当ならな。
しかし、その仮面の様な笑顔に気付いてしまう。
これは……営業スマイルってやつだよ。
「ありがとうございます、お姉さん」
こちらも負けずにニッコリと笑いながら、握手の為の手を出すと、お姉さんは口の端をヒクヒクさせた笑顔を作りながら、握手してくれた。
呪いは、どうやら、確かに存在するみたいだ。
それから、登録をする為にカウンターへ行く。
「ここに、記入をお願いします」
と渡された紙には、自分のプロフィールが書ける様になっていた。
名前、住所、それに使える技能、師匠の名前など。
傍に置いてある、万年筆を手に取る。
名前は、えっと、“イトウ ユキナリ”と。
手が、この人生で書いた事のないクリクリとした文字を生成していく。
得意な技能、か。
「もしかして、職業とかってあるんですか?」
「職業?」
目の前の、背が高く鼻も高いお兄さんが明るい声を出す。
「ああ、いえ、前衛と後衛でどちらが得意かや、どんな技、どんな武器が得意かなどはありますが、肉屋や魚屋のような職業はありませんよ」
なるほど。
得意なスキルを上げていくタイプで、職業に就くタイプではないみたいだな。
まだ何も出来ないから空欄だ。
住所、は。
ふと、お世話になった教会の事を思い出す。
俺は迷いなく、住所の欄に“ペケニョの村”と書き込んだ。
冒険者っぽくなってきましたね。