1 短剣一つ
洞窟。
といっても、どうやら人工的に作られた洞窟のようで、壁に魔法がかかっているらしく、周りは見渡せる。
ピタピタと、天井から水滴が落ちる音だけが響く。
こんな人気のない場所なら、虫やら何やら居てもおかしくない気はするが、そんな小さな生き物は魔物に食べられてしまうのだろうか。
コウモリやら蜘蛛やらは見当たらない。
ユキナリは、バクバクと波打つ心臓を抑える。
やっと手に入れた短剣一つを握りしめる。
他に武器や防具はない。
命からがら、今やってきたゾンビとの戦いを思い出す。
ゆるゆると動くだけの魔物相手に、それでも思い通りの動きなんて出来なかった……。
服も汚れてしまった。この短剣も、どうやって手入れをしたらいいのだろう。
このダンジョンは、子供ですら入れるレベルのものだと聞いたのに。
キツすぎるだろ、こんなの。
けど。
ここはダンジョンの最奥。
別段ボスがいるわけでもない、ただの廃墟の様な洞窟の奥。
うっすらと発光する石壁に囲まれたその小さな部屋には、大きな宝箱のような石で出来た箱がポツリと置いてあった。
この大きな宝箱の様なものに望みをかける。
俺はこの世界で生きて、必ず魔女を探し当てる。
これが……その第一歩だ。
目の前にある、大きな宝箱のような箱の蓋に手を掛ける。
ここがまだ未踏なら、金目の物が入っている可能性は十分にある。
ギ…………ギギ………………。
鍵のかかっていないその箱は、期待できそうな音を立てて開いた。
ゴトン。
「………………は!?」
思わず、声が出る。
あまりの事に目を逸らす。
誰も居ない事を確認する為に周りを見回す。
今見たものを確認する為に、視線を落とす。
「は……?何だよ、これ」
そこに入っていたのは、人だった。
長い銀髪。
うずくまる為に曲げられた色素の薄そうな手足。
スヤスヤと眠っているように見える顔。
確かにそれは、人の形をしていた。
どう見ても女の子だった。
それというのも、その女の子は、一糸纏わぬ姿をしていたのだ。
こんなところで寝ているというのに触るとすべすべとしそうな汚れのない脚が見える。
食事には困っていなさそうな健康的な横腹が見える。
そのすぐそばに、大きすぎもせず、かと言って手で掴めば掴みがいのありそうな膨らみが見える。
「な…………何でだよ……」
声が震える。
まさか……死体…………。
息をしているのを確かめる。
どうやら、生きてはいるようだ。
魔物に誘拐された!?それとも、服を溶かす魔物でもいるのか……?
オロオロとしていると、声に反応したのか、背後、遠くに魔物が蠢くのが見えた。
「こ、こんなところに置いて行くなんて、無いよな」
自分に言い聞かせる様に、その娘に声を掛ける。
「おい、起きろ!」
右手を伸ばし、一瞬躊躇し、また手を伸ばした。
肩に手を触れる。
あったかい。
「おい!お前!」
一向に起きる気配のないその少女に、
「不可抗力だからな?」
言い訳をする様に俺は両手を伸ばした。
新しく書き始めました。
念の為R-15を付けていますが、いつも通りのほのぼの恋愛ものです。
どうぞよろしく!