第二ボタン
中学、高校と、友達もいないボッチで、学校ではよくイジメられてて、まったく女子にはモテなくて──ずっと、彼女が欲しい……! モテたい! と思っていたぼくが、卒業式の前日クラスの好きな女子に──
「卒業式のあと──正門の所で待ってるから──必ず来てね! 第二ボタン! 誰にも渡さないでね──!」
そう言われて当日──約束の場所へ喜び勇んで浮かれて行ってみれば、クラスのみんなに待ち伏せされてて、動画まで撮影されて──
「おいおい、お前──マジで本気にしちゃった!?」
「ざ〜んね~んドッキリでした~!」
「ねぇ! ヤッバ〜イ、チョーきもーい(笑)」
「てかぁ〜、あいつ三年間、ずっと私のこと〜エッロ〜い目でみててぇ〜」
「えっ!? 何それ〜サイテ〜!」
「ってか、サイアクじゃない?」
「キモチワルイんですけどー!」
「死ねばいいのに……」
「いやん♡ 女子ちゃんず辛辣〜! それ流石にきちーわ(笑)」
「そういえば、さっきからなんか臭くね……?」
「別に……」
「ぼくは死にましぇ〜ん──!」
「あっはっはっはっ──それマジウケるー!」
「うっひゃっひゃ、だっひゃっ、ダッセー!」
大勢に馬鹿にされて──笑い者にされて──
「第二ボタンくださ〜んぃ、あなたのこっとが〜ちゅっきだっからぁ~ん!」
そう言って、リーダーの男子がぼくの胸を掴んで第二ボタンを取ろうとしてきて──
ボタンを取り返して、相手の手を振りほどこうとしたら揉み合いになって……蹴飛ばされて……そのまま道路に突き飛ばされて……トラックが──
そう。ぼくはたしかに死んだはずだ──
「ここは──天国? うわ! なんで裸なんだ!?」
なにもない──まっ白な空間でぼくは目覚める──
「いや──ってか、なんで全裸に第二ボタンだけ持ってるんですか──っ!?」
ふと右手になにかを握っていることに気づき、疑問に思いそれを確認して、ぼくはそのシュールな状況に自分ツッコミを入れてみる──
「……」
「ようこそ──コウジ・イバナ──ここはまだ天国ではありません」
目の前に女神様? がいる──よく見るとおっぱいが大きい──
う〜ん……Sカップ……。
「ここは死人の魂の行方を選別する天界です──」
ということは、これから天国行きか地獄行きかを決める──ということ?
ぼくはてっきり、それは閻魔様の仕事だと思っていたけれど……。
「ごめんしゃい……」
出会っていきなり女神様は頭を下げる──
「実はあなたは今日──死ぬはずではありませんでした……。死んだのは完全にわたしのミスなんです……!」
女神様いわく──どうやら本来、人の生き死にとは神様があらかじめ予定しているらしい。
「わたし──ドジでおっちょこちょいな駄女神だから──!(泣)」
でも失敗ってなんだよっ──!
泣きたいのは……ぼくのほうさ──!
なんでぼくばっかり──いつもひどいめに……!
神様がそんないい加減な仕事をしてて
いいのか──!?
「──イヤそれ、絶対アカン奴ぅーーーー!!!!」
想定外な状況に混乱し理解が追いつかないぼくは、変なテンションになり頭が狂って発狂し、指さしゲッツで女神様に関西風のツッコミを入れる。
「……」
「……」
「……」
「まだ──あなたの魂は消滅していません──」
恥ずかしっ──! 普通に流されてしまった……。
「元の世界はあなたにとって──とてもつらい世界だったようですね……。ぐすん……(涙)」
あぁ……ぼくのこと全部……知ってるんだよね……。
あれ──? 女神様の目に──涙──?
なんだ……結構、優しいんじゃん……。
「コウジ──あなたをすぐに別の世界へ──今の記憶を引き継いだまま転生させてあげましょう──!」
えっ──!? それって……異世界転生だよね……!?
「そこで──18歳から人生の続きを生きてください──!」
キタキタキタキターーーー!!!!
「残念ながら元の姿での転生は既に肉体がないので、できませんが……。それと──転生する前に、なにかお詫びにひとつだけ……人生が有利になる天界の道具を授けましょう……」
ハイッ──! キタァーーーーッ!!!!! あれだよね? あれだよね? 例えば──強力なドラゴンのブレスも防ぐ伝説級のチート防具とか、どんな闇も切り裂く光の聖剣とか! ひとつだけ……う〜ん……それはたいへん悩ましぃ……。
実は──前世でぼくは異世界転生ラノベがめちゃくちゃ大好きだったので、この展開には心が弾む──
今──ぼくは体の前で腕を組み、いったいどんな道具をもらえるのかと妄想しているよ……。うへへ──
「あらっ……!? ちょっと──コウジ──! その手に持っている物をわたしに見せてくれないかしら……」
一度どこかへ行こうとしたが、ぼくの手の第二ボタンに気づいた女神様は立ちどまる──
こんな物はどうでもいいから、はやく話を先に進めたいのだが──
しぶしぶ──ぼくは第二ボタンを渡す──
「やはり──! これは──!」
女神様は驚いた様子で饒舌に話しはじめる──
「人が死ぬ時──なにかを手に持っていた場合──それが人生における未練などの強い想いと強く関係する時──人はそれを天界へ持って来ることができるのです。今からあなたに授けようとしていた道具も、全てそういった経緯でここに集まった物なのです。そして、その想いの力が強いほど、その道具にはその想いに応じた強力な力が宿ります──」
女神様はとても興奮気味に語っている──
「少し──わたしがこのボタンの能力を鑑定してあげましょう……」
女神様はぼくの第二ボタンを両手でつつみ──その両腕を前に伸ばす──
そして──両手をひらく──
「バルス──!」
「へっ──!? バ……バルス……!?」
第二ボタンが空中に浮き、強烈な光を放つ──
ぎゃー! 目がー! ぼくの目がー!
いや──! 急にまぶしいって──!
そういうのは先に言っといてよ──!
直視しちゃったよ──!? 直視──!
「こっ! これはっ!? この能力は──! これは……とても面白い能力ね……。持っていける道具はひとつだけ──どうやら選ぶまでもないみたいね──あなたにはその道具が相応しい──」
なんだ──なんだ──なんだ──なんだ──!?
今──どうなってるの──? えっ!? 最強の防具は──!? 光の剣は──!?
「では最後に──あなたに新しい健康な肉体と……そうね……裸じゃなんだから──その神具に似合う新しい服を──サービスでつけてあげるわね! それじゃ──! 良い人生を──! どーん!」
えっ……!? ちょっと待って──!
まだ第二ボタンの力の説明を聞いてないよ──!?
「うわっ──!? うあぁぁーーーぁーーーっ!!!!」
やっとこさ目をあけると、足元にゲート──もとい穴が空き──ぼくは地上へと送られ──いや……落とされた──
「次の世界ではたくさん人生を楽しんで下さいねー!」