05 クレムリンの刺客(中)
ズドーンっ!
吹き飛ばされた私に、畳み掛けるように雷が襲いかかる。瓦礫の中を転がりながら回避し立ち上がると、今度は風刃が迫ってきた。剣で薙ぎ払い対応する。透かさず氷の刃が飛んできた。慌てて後方に飛び退く。
距離を詰められず、防戦一方だ。
ぶわっ!
着地時に風が舞い、足を取られ後ろに転がされた。
ピカッ!
背中が地に着く前に、敵の杖が輝く。
(くっ、どうやっても避けられない)
「うぉおおおおおおおっ!! 」
リオンの雄叫びが聴こえてきた。雷線が仰向けの私の、鼻先を通り過ぎていった。リオンが敵に突っ込み、軌道をズラしたようだ。
ドッカーン!!
「ぐわぁっ! 」
轟音と共に、リオンの呻き声が聞こえてきた。アレだけ激しかった私への連撃が、止まる。
時間にしてほんの数秒。しかし、それで十分だった。
「【書籍化】っ! 」
私は、叫んだ。
これを逃したら、きっと、チャンスはこない。
『SP200を使って、コピー用紙200枚を召喚しますか? Yes or No? 』
「Yes! 」
ひゅんひゅんひゅんひゅんひゅんひゅん……
無数の白光りする紙が降り注ぎ、地面に突き刺さっていく。円状に何かを取り囲んで居るようだったが、砂埃でその姿はよく見えなかった。
リオンを襲っていた魔法が紙に阻害される。
砂埃がゆっくりと落ち着いていき、1人の女性が姿をあらわした。複雑結い上げた銀髪に、透き通る様な水色の瞳の女性だった。黒のローブに身を包み、右手には如何にもな厳つい杖が握られていた。発せられる炎や風は、全て紙が防いでいた。
ごっ!
紙が舞いあがる。まるで意思を持った大蛇の様に女性の頭上に螺旋を描きながら集まっていく。
その紙に追従するように、女性の体が黒い線となって解けていき、紙に吸い込まれていく。頭部や指先から始まったそれは、一気に足元まで辿り着き跡形もなく消滅した。
一冊の本が、宙に浮かんでいた。
光り輝くそれは、ゆっくりと、私の手の中に舞い降りてくる。
『クレムリンの刺客』
表紙には、そう刻まれていた。
「リオン、大丈夫か? 」
本をアイテムボックスに収納し、リオンを探した。
「は…………い……」
積み上がった瓦礫から、弱々しい声が聞こえてきた。急いで退けると、血だらけで横たわるリオンがいた。
アイテムボックスから初級回復薬を取り出し、振りかけた。傷が癒えていく。
「……あ」
「ほら、飲め」
上体を起こし、不思議そうに自分の体を眺めているリオンに、もう二本取り出した内の一本を差し出した。
「……こんな高価なもの……貰えません 」
「見事なタックルだった。今日は私の奢りだ」
「……でも」
「こういう時は、先輩を立てろ。ほら、乾杯だ」
リオンの手に、無理やり握りこませた。
カチンっ!
ガラス瓶を軽く打ち鳴らし、一気に煽る。
「げぇっ、不味いっ! 」
私につられて煽ったリオンが、顔を顰めながら叫んだ。