2人の支部長の悲鳴は夜を駆け巡る
「どうしてこうなった……」
支部長室のデスクの下に膝を抱えたまま蹲り現実を直視出来ないでいた。目の前には金貨数百枚もの請求額が記載された請求書が1枚。
「何やら賑わっているとは思っていたんだ、依頼事態も色々おかしなものが多かったし。」
魔食日の事後処理に追われながらも目を通す依頼の数々も街の中での労働力を求めるものが多く、冒険者達も普段は毛嫌いする傾向にあるにも関わらず率先的に受注する不可解な行動が多かった。
「意味が分からない……何故だ何故なんだ。」
街は明日に向けた活気に満ち溢れており、中央街道には様々な出店屋台が建てられていく。
装飾に彩られた街並みは祭りの準備が着々と進み、後戻り出来ない事を突きつけてくる。
「おかしい、ただの打ち上げで終わる筈だっただろう。」
殴りたくなるのは魔食日終了のあの日の自分……
「今回はご苦労様だった、結果としては中央部、東支部チームの勝利となったがご褒美の打ち上げは今回関わった全員に俺としては進呈しようと思っている。」
合同作戦に関わった全員の飲み会代と言っても金貨数十枚、痛手と言えば痛手であ。しかし、これくらいならば何時もの事だと口を滑らせた事を酷く後悔する事となった。
問題は俺の言葉足らず、『今回関わった全員』という言葉にあった。
「誰が魔食日に関わった全員なんて言ったんだ。全冒険者なんて言った覚えなんてねぇんだよ!」
街をあげての一大イベントにまで発展してしまった、この事態を収拾するには気づいた頃には既に遅く今現在に至ると言うわけ。
何処から情報を仕入れたか儲け時とトロイヤの街へと行列を作る商人達、俺を持ち上げるように所々に目印のように立てられるストレラ祭なる旗。
「陰謀しか感じない……俺に知られないように進められた計画、忙しくさせられ此処へ缶詰状態に出来る人物、何時もは胃を心配してくれる筈のナーネルちゃんが来ないし。」
因みに胃薬は届けられているティレの手によって、書類関係もティレが少しずつ小出しに持ってきている。
「しぶちょう〜、追加の書類持ってきたぞ、胃薬の追加もあるよぉ。」
「まだあったのか、ティレさんや何故小出しにどんどん持ってくるのかな?」
「んっ?そりゃ支部長をこの部屋に縛り付けておく為でしょ。あれ?これ内緒だったっけ?」
こんなにあっさり知れる事だった筈なのに、今まで不思議に思わなかった俺って……
もう良いかと隠す事もせずに話し出すティレ。
予想通りナーネルちゃんも1枚噛んでおり、閉じ込める策は彼女のもの。
「まぁ、これが此処にあるということは既に俺に拒否権はない状況になったんだな、もう仕方ないと思うしかないか。」
「どんまい支部長!なんか分かんないけど皆楽しそうだったからいんじゃないの?」
「良くはないんだ、良くわな。」
ダンジョンの暗い空間に独りだった彼女からすればこの賑わいは新鮮でわくわくするのだろう、にこやかに笑うティレを見ていると少し救われる気もするが、これもきっと策略の内なのだ。
俺が飲み込めるように誘導しているのだろう、しかしこの現実はそうそう鵜呑みに出来るものではないと、床に落ちた請求書を見据える。
その時俺に女神の福音が舞い込む。
ドンッ!
勢いの良い扉の開閉音、いつも思うが扉は何故壊れないのか疑問だ。
凄まじい音に隠れていたデスクの下から顔を出した先に見知った顔が見える。
「ストレラ、貴様自分だけ株をあげようなどと画策しているようだな、南支部の俺も関わっているのにお前だけの功績にしようなどと卑怯な。」
「何を言っているだランドム、何故俺に突っかかってくる。」
唐突に現れた南の支部長ランドムの整った顔が俺の目の前に一気に近寄ってくる。
彼の言いたいことは何となく察する事が出来る。きっとこの街の雰囲気が原因なのだろうが、こちらとしても意図も把握もしていない事態なのだから理不尽である。
「貴様ばかり持ち上げられるのは許せん、俺もこちらの戦力の大半をそちらに回す為に立ち回ったんだぞ。」
こいつは俺が周りから英雄視されているのではないかと勘違いしているのだろうな、栄誉が欲しいと言うよりは実績を独り占めしているとでも思っているのだろう。
全くもって微塵もそんな事はないのだが……そして俺はひとつの閃きを得る。
「そうか、お前も一口噛みたいと、そうだよな、お前も頑張ったんだし賞賛されるべきだな」
相手の肩を叩きながら嬉々として同意し、俺は窓を開けて深く息を吸う。
「皆の者、此処にいる南支部支部長、ランドム殿も資金を出してくれるそうだ!」
ギルド前に集まる我が支部の賑やかし達に声高らかに叫びギルド前に静寂が訪れる。
そして……歓声が湧き上がりそれは瞬く間にトロイヤの街並みに広がっていく。
「どういう事だ!貴様何をした!」
「賞賛されたいんだろ?お前もこれで俺と共に地獄を見るんだ、後には引けないぞ」
彼の掌の上に床に落ちていた請求書を乗せて歪んだ笑顔を向けて笑う。
「き、貴様……謀ったな……」
「何を言う、お前が先に狡いと言ったんだろう、俺はそれは同感だと共感したからこそ行動したんだ。」
わなわなと金額を見据え我に返るランドム、彼の姿を目にすれば何時もの自分が目の前に居るようで、二倍苦しみが湧き上がってくる。
「苦しいよな、分かるぞ、この地獄が毎回味わっている俺だからな。」
「貴様が巻き込んだんだろ、こんな金額を自腹切るとはお前どれだけ馬鹿なんだ!」
「馬鹿だと俺自身が思ってるさ、だけどな、俺の知る頃にはそうなってるんだ、逃げ道も無くなってるんだよ。」
窓の外、遠くを見つめながら悟りを開いたように逃げられない現実から逃避する俺、そんな俺を見たランドムが悟る。
「お前も大変なんだな、仕方ない今回は俺も被害を被ろうじゃないか。」
同情と分かっていても相手の優しさに込み上げてくるものがあった。
「ねぇねぇ、支部長?この書類赤いよ?大事な書類じゃないの?」
存在を忘れていたティレからの1枚のギルド本部からの陳情書、内容はラリスタ貸し出しによる請求と新技術秘匿に対するお怒りである。
そして最後の1文
『なお、東支部南支部、両支部長には責任をとって各国へのキャンセル賠償請求を負担して貰う』
俺とランドムはお互いの目線を合わせる、青ざめていく顔を見合いながら2人で叫ぶ。
「「どうしてこうなったぁぁぁぁ!!」」
賑わう街の活気を打ち消すかの様に2人の男の雄叫びが街中に響き渡ったのだった。
今日も今日とてストレラの苦悩は続く、支部長である限り。
もう書き終わりという所で書き負えれず時間を開けてしまいましたが何とか最後まで書き終える事が出来ました
執筆を中断してしまい書き終えるまでに時間をかけてしまった事は本当に申し訳なく思います。
見てくださっていた皆様には感謝しかありません、ご愛読頂けた方々ありがとうございました。