魔食日の後日談2
皆既魔食からひと月。
地獄の事後処理も落ち着き、東支部も他の支部同様落ち着きを取り戻していた。
「あんた達にこんな依頼任せられるわけないっしょ。もう少し自分の能力考えたらどうなのよ。」
「だけどよ、俺らだってEランクだぜ、Dの討伐依頼を受ける権利はあるだろ。」
受付では透ける黒い羽根を持ち、黒髪をお団子頭に纏め、特注のギルド職員の制服に身を纏ったフェアリー。
その向かいにはフォートがカウンターに肘から下をついて睨み合いを繰り広げていた。
「相性悪いわよねこの2人。」
「僕はティレちゃんに賛成かな、あの依頼だとお昼食べ損なっちゃうし。」
「フットの基準は食事なんだな。」
いがみ合うティレと呼ばれたフェアリーと
フォートの睨み合いが続く中、列の渋滞は伸びるばかり。
「どうしましたか、ティレ、業務に支障が出る真似は避けるように言ったと思うのですけれど?」
「げっ、副支部長……ち、違うのよ!こいつらが自分の実力も考えないで依頼持ってくるからなのよ。」
「ちゃんと考えてるって言ってんだろ、俺らだって無茶な依頼受けるつもりはないっつうの。」
数回繰り返す問答を未だ続け睨み合う2人、そんな2人を見て近づいてきたナーネルが溜息をこぼす。
「はぁ、ティレ、しっかり説明をしてあげてください、貴方なりの考えがあるのでしょう。」
「し、仕方ないわね、この時期ハウルウルフは繁殖期、いくら広い草原でも警戒を強めている獣は、警戒範囲も通常より広範囲になってる場合が多いのよ。」
ズバッと目の前の少年へ人差し指を向け、勝ち誇ったように言い放つティレ。
「そんな中あんた達が集団で襲ってくるあいつらの連戦に耐えれるわけないわけよ。」
「そうか、周りの集団もエンカウントしやすいからか。確かにその情報は考慮に入れてなかったな。」
「チッ。それならそうと先に説明すればいいだろ。」
「何よ、あんたが話す前に喧嘩吹っかけて来たんでしょうが!」
終わる筈だった睨み合いがまた繰り返されそうになるが、ナーネルの拳がティレに振り下ろされることで終止符が打たれた。
「毎回、受付はギルドの華、冒険者に対して誠意と笑顔を忘れずに対応しなさいと言っているでしょう。」
(貴女がそれを言うのか)
彼女の言葉が淡々と他の者達の耳に入るが、皆一応に同じことを口には出さず心の中で突っ込む。
それも、人睨みの冷たい視線に一蹴されるのだが……。
「いたた、手を挙げることじゃないじゃない!あんただって笑顔見せた事ないっしょ、人に言える立場な訳!」
(あえて俺達が言わなかったことを……)
2重のたんこぶを作る事になったティレ、口は災いの元とはよく言ったものである。
「そういう訳ですが、依頼の受注はどうしますか?」
涙目で頭を抑えるティレを放置し、何時もの態度で話を進めるナーネルが少年らにもう一度問いかける。
「その情報は考慮に入れてなかった、フォート、今回は諦めて他にしよう。」
「そういう事なら仕方ないか。ティレ、丁度良い依頼あったら教えてくれよ。」
「仕方ないわね、そこまで頼むなら出してあげようじゃない。」
「お前一言余計なんだよ、勿体ぶらずに早く出せよ。」
「集団戦の訓練にもなるならこの辺りのウルフ系統がおすすめね、あんた達の実力なら苦にならないはずっしょ。」
「おっ、良いじゃん、依頼と訓練で両得、んじゃ、それで頼むぜ。」
「仲が宜しいですわ、お二人共。」
「どっちか分からないでしょあれ、毎回同じ事繰り返してる気がするわよ。」
「喧嘩するほど仲がいいってやつじゃないか?」
「どうでも良いけど、僕お腹すいてきたよ、何か食べてから出発しようよ。」
何時もの日常を取り戻した東支部がそこにあった。