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魔食日の後日談

 魔食日終了まじかの昼前、1つのダンジョンの薄暗い一室。


 室内でぽつんと淡く光る物体が忙しなく飛び回り、悔しさに声を荒らげていた。


「キィィィ、なんでよ、あっさり抑え込まれちゃったじゃない!」


 苛立ちを隠さず宝珠に映る映像を見ては空中で地団駄をふむ黒い羽根を持つ1匹のフェアリー。


「ドラゴンはどうしたのよ、他にも散々用意してたのに殆ど現れもしないなんてどうなってんの。」


 彼女が1年をかけてこの日の為に用意した策略の殆ど、それは未然に依頼として処理されていた。


 冒険者達からの事細かに提出される報告書、その中には異変を察知する為の情報も幾つか載せられ、必然的に彼女の計画を破綻させる事にも繋がっている。


 その事を彼女が知る術はないのだが、種だけを撒いて放置していた失態とも言えた。


「くぅぅ、やっと自由になったのよ、封印されてた腹いせにしっかり準備してたのに、どうしてこうなるのよ。」


「計画がずさんだったからでしょう。しっかりと最後まで確認しないのは変わりませんね。」


「何よ!このティレ様の計画を否定するつも……げっ」


 存在しない筈の声に怒りのままに体ごと向けた先、瞳に映った人影に盛大に表情を歪める妖精。


「殺戮マシーン女!」


「久しぶりですね、1000年前から反省も成長もしていないようで。」


 黒装束に身を纏ったエルフ、その姿には見覚えがある。


 彼女を長い間封印した者達の1人であり、1番恐怖を植付けた相手がそこに居た。


「なんであんたがここにいるのよ!だから嫌なのよエルフって、無駄に長生きなんだから。」


 下調べでは最悪の7人は皆死んだとの情報も掴んだ、平和ボケした世の中の最強と呼ばれる者達も脅威度は下がり、分散させる事にも成功していた。


 しかし、目の前には予想もしていなかった最大の壁がこちらを睨みつける。


 植付けられていた恐怖に空間に固定された様に硬直する彼女の羽根は、相手の指先にやすやすと捕まれ退路さえも塞がれる。


「今回もおいたが過ぎましたね。」


「狡いわよ、騙して生きてるなんて、あんたが居たから失敗したのよ。」


「私が居なくとも失敗していたでしょうが、また同じ事を繰り返されても敵いませんね、消しておきましょうか。」


 冷たい視線に晒された妖精の体が痙攣を起こしたようにガクガクと震え、悪寒に冷や汗を滝のように流し始める。


「あれ?ナーネルちゃん、何で此処にいるの。」


 風前の灯火だった妖精の命は続いて現れた男によってつなぎとめられることとなった。


「遅いですね、私の方が先に着くとは思っていませんでしたが、腕が落ちたのではないですかストレラ?」


 先程まで妖精に向けられていた殺気が彼へと移り、次はストレラが滝汗を流し直立不動で弁明を繰り広げる。


「いや、ちょっと迷っちゃってさ、なんか異様に気配を掴みにくかったし、仕方ないじゃないですか師匠。」


 彼にも植付けられたトラウマが数々ある、師弟であった頃の記憶が蘇り、今にも泣きそうな表情で危機を回避しようと口を動かす。


「デスクワークなんだから仕方ないじゃないっすか、俺はもう現役でもないんすから勘弁してよ。」


  「私も現役を退いて数百年になりますが、言い訳はそれだけでしょうか?」


 ストレラの浅い言い訳など彼女に通じる筈もない、何かにつけては言い訳で誤魔化そうとする彼、ただ、目の前の彼女に通用した試しなど1度もなく今回も片手でいなされてしまうのだった。


  「ま、まあ、それはそれとして元凶はそこの小さなお嬢さんで良いって事かな?」


  「そうですね、昔おいたが過ぎて私達が封印しておいたのですが、悪戯好きのダンジョンフェアリーがまた悪さをしていたようで、今から消去する所です。」


  「ちょ、ちょちょ、ちょっと待ちなさいよ、なんで消される事決定してるのよ、私はただあんた達にし返したかっただけじゃない、やり返しただけなんだから!」


 羽根を摘まれ逃げる隙もなくジタバタもがき続けるフェアリー。


 彼女の運命は風前の灯、ナーネルの冷たい視線に貫かれる時間が長くなる程どんどん弱く、その瞳に目を覆い隠すほどの涙が溜まっていく。


  「う、うわぁぁぁ、寂しかったんだもん、ずっと1人なのよ、皆楽しそうに冒険してるし、私が遊んでもらおうとしても構ってくれないじゃない。」


 恐怖心が限界を超えたか、フェアリーは大粒の涙を宙へ零し大泣きし始める。


 ダンジョンフェアリーであるティレは元々全てのダンジョンの道先案内人として生まれた存在であり、ダンジョンに挑戦する者を手助けする存在だった。


 ただ、国に縛られた冒険者達は荒くれ者が多かった時代、彼女は獲物として見られる事が多く、その反面構って欲しい彼女は冒険者へ悪戯をするようになった。


 「1000年も孤独だったんだからちょっと遊んでも良いじゃない、何が悪いのよ、あんた達だって私を追いかけたりするじゃないの、恐い思いさせてもお互い様でしょ。」


 嗚咽混じりに子供の様に喚く相手に頭を抱えるナーネル。


 大陸を窮地に陥れる理由が構って欲しいというちっぽけなものが発端で引き起こされては国がいくつあっても足らない。


 「寂しかったのか、それじゃ仕方ない、どうせ被害はなかったわけだし良いじゃない。」


 「また貴方はそうやって面倒な事を見なかったふりをしようとする。」


 「そうだ!寂しくなければ良いのなら良い仕事がある、それを罰としようじゃない。」


 「寂しくなくなる仕事?何よそれ、そんな罰になりもしない罰がある訳ないじゃない。」


 「上司はそこにいる恐いお姉さん、それだけでも大した罰だと思うけれど」


 「ひっ!」


 処刑台へ向かう囚人のような顔をするティレだが、提示された2つの選択肢のどちらを選ぶべきか火を見るより明らかだった。

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