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東支部のフェスティバル(後編)3

 その頃ロンド率いる東は聞く限りの状況に頭を悩ませていた。


「予想以上だな、これだけ大規模になるとは、こういう時にシングルが一人も居ないのは馬鹿げてる。」


 見積もっていたモンスターの数は、例年の三倍程度。


 魔食の比率を数年分比較したロンドが出した数字がこれであったが、実際の報告を聴けば、少なく見積もっても五倍であった。


 彼が、S級と呼ばれる中でも個人としてその称号を持つ者達。


 この場合、偉人の子孫達と数名のS級を指すのだが、彼等の力を切実に願った事は仕方がない。


 個人で国を滅ぼしてもおかしくない、殲滅能力を持つ彼らがいつも通り数人居たなら頭を悩ます事もなかったのだから。


 ただ、上の判断が間違いでなかった事も理解出来た。


(これだけ大規模になってくると、壊滅的打撃を受ける国も出るだろうな、それを見越して全員派遣か、此方にも情報を落として貰いたかった所だが……)


「よし、魔法部隊は一時後退、近接戦闘部隊は深追いせずに先発隊を撃破、目標地点になるべく誘導して集めてくれ。」


 何時もの巫山戯た口調ではなく、プライベート時の低い低音ボイスで通信隊に指示を飛ばす。


 ロンドの指示に従い、近接戦闘に特化したもの達が当初予定した平原地帯へと、モンスターの動きを誘導し、徐々にその数を減らす。


 しかし、殲滅性のない為、後から後から増えるモンスターは肉の大軍となりトロイヤへ向けて進み続ける。


 しかし、モンスターの進む先には、広い平原と行く手を阻む土の壁が待ち構える。


 人より高く作られた壁を背に一人の魔道士が、二人の祈祷師を引き連れ大群の到着を待ち、膨大な魔力を圧縮された球体を5つ宙に浮かべて待機していた。


 平原まで後退してきた近接隊は彼女の横をすり抜け壁の向こうへと退避する。


「やべぇ、めちゃくちゃ楽しそうだったぞ。」


「いや、あれは嬉しくて口元がにやけてたんだろ、目はマジだった。」


「爆裂焔のレリラだぞ、どっちもじゃねぇか、それより赤く染まりたくなきゃ、さっさと逃げるべき。」


 走り去りながら悪寒を感じざる負えない彼らは一目散に平原から逃げ去るのだった。


「レリラさん、そろそろいいんじゃないでしょうか。」


 桃華が額に汗を垂らし祈りを捧げ、押し寄せる砂煙に頬を引き攣らせる。


「同意しますわ、これ以上は私達の逃げる時間が……ひぃ。」


「クリア集中乱さない、まだよ、私の最高の舞台なんだから、さぁ、もっと集まりなさい、ふふ、ふふふ。」


 実践も経験していないクリアは祈りの集中力が乱れ、押し寄せるモンスターにか足を小刻みに震えさせ、上ずった声で隣のレリラを見上げる。


 しかし、レリラは一蹴し、クリアの祈りを施す。


 何時もは口数の少ないレリラも高ぶっているらしく、不気味な笑い声を抑えきれずに集まるモンスターの群れを眺めている。


 その間にも迫ってくるモンスター、その容姿も明確になり、百メートルと距離がないくなって行くにも関わらず、レリラは凝縮する水球の数をまだ増やそうと祈祷師の二人を酷使する。


「おい、レリラ、二人が限界だ、お前人の事を考えろ。」


 退避補助の為に居残っていた、オーレンが壁の上で叫ぶ。


 桃華は大量の汗を流し表情も曇り、クリアに至っては蒼い顔で朦朧としているようだった。


 無限の魔力を供給出来ると言っても、ノーリスクではない、祈りにはそれ相応に体力も精神力も削られるのだ。


 見かねたオーレンがクリアを抱き上げ担いで壁を乗り越え、同じく残っていたロトンが満身創痍の桃華に手を差し伸べて引き上げた。


「ちょっと余計な事しないでよ、私の最高傑作のお披露目会なのよ。」


「馬鹿野郎、お前だけでやってろ、二人は連れていくからな。」


「もういいわ、あとひとつ位ならまだ作れそうだし、さっさとどっか行きなさいよ。」


 爆殺する事になれば人の変わる彼女を、オーレンもロトンも止められるとは思っておらず、これい以上は無駄と歩く事も出来そうにない二人を背負ってその場から離れる。


「さぁ、綺麗な花火をあげて頂戴よ。」


 ギリギリまで練り上げて作った十の球体、既に数メートルという所まで迫った敵を。楽しげに見るレリラが声をあげて戦闘集団に水球を放つ。


 放たれた水球は数万と平原に集まるモンスターを音速の速さで貫いて行く。


 貫かれたものが動きを止め、呻き声を上げながら苦しみ始め、次々と瞳を充血させる。


「さぁ、爆ぜなさい、私の芸術のの糧となって。」


 何時もは非難されてばかりだが、今回に至っては作戦のひとつという事もあり、彼女の歯止めとなる者は一切存在しない。


 水を得た魚の様に生き生きとしたレリラは、近場から爆ぜていくモンスターを見つめ、狂気の表情を浮かべていた。


「ふふふ、魔力の干渉伝達、当たれば回避不能のブラッド・パンデミック、良いわ、やっぱり爆裂魔法は最高よ。」


 水魔法だが、彼女の中では爆裂魔法というカテゴリーにしたいらしい。


 本来留まり、単体にだけ威力を発揮するこの魔法なのだが、相手の血液へ触れた瞬間、コビー魔法により相手の魔力と血液でブラッディ・レインの種を振りまく魔法へと変質していた。


 倫理感や固定観念を完全に逸脱出来ねば発想すら出来ないが、爆裂へかける彼女の執念が引き起こした奇跡の魔法としか言えない。


 ブラッド・パンデミックに襲われたモンスターは、次々と爆裂していくモンスター、ものの数分で平原を満たしていた彼らの姿は肉塊も残さずその姿を消す。


 ただ、天に巻き上げられ平原一帯に降り注ぐ赤い雨だけが、一瞬の静寂とおぞましさを物語っていた。



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