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東支部のフェスティバル(後編)2

 中央部の数カ所で巻き起こる殲滅魔法、上空にもその余波が垣間見える程である。


 南の冒険者達が集まる範囲にも、その光景はしっかりと視線を引いた。


「おぉ、開幕ぶち込んでんぞ。」


「やる事が変態じみてんだ。」


 波状攻撃で森の生物を一掃する作戦のこちらでは、防衛部隊は任された地区で狩り残しを各個撃破していた。


「俺らも向こうの方がよかったんじゃねぇか、これじゃ、儲けも貢献度もいい所なしだ。」


「そういうなって、楽して稼げるんだ良いじゃねぇか、モンスターに囲まれてお陀仏よりはマシだろ。」


「違いね。」


 壁際で談笑している者、食事をしている者等が殆どであるこちら側。


 というのも神速の取り巻き連中であり、その大半は素材回収を主な役割をする冒険者崩れスレスレの中堅冒険者であった為だ。


 神速や、A級、B級は森に入り見つかり次第モンスターを狩っている、残りカスは加入した若手に任せて置けば事足りる。


 神速に着いての大型レイド戦ではこういった情景をよく目にすることが出来る。


 強力なパーティーでスピードを求め、先手必勝で狩り尽くしては討伐を終わらせる、これが何時ものパターンとなっていた。


「大体雑魚は片付いただろ。」


「結界がある範囲は敵じゃねぇ。フォーミングアップは終わりだ、さっさと次の場所に取り掛かるぞ。」


 突撃部隊はかなりピリついた気配が漂っている。


 先程の中央部のパフォーマンスに、気分を悪くする神速のメンバーと、その他の彼らをヨイショしてきた取り巻きのメンバー。


 ロイドが絡んでいるに違いないと、ただのこじつけの怒りを向け、自分たちより遥かに目立つ者がいる事にも腹を立てて功績を急ぐ空気になっていた。


「さっさと終わらせて、奴らのマヌケ顔を見に行くぞ、さっさと準備しろよ。」


「ちょっと、飛ばしすぎても何もならないわよ。休める時に休んどかないと、この後の本番でバテちゃうわよ。」


「そうですぜ、あちらさんがどうこうしたって結果は変わらないんすから。」


 ちょっとした事で感情的になりやすいランドを、ガジルとシャラが諌めようとする。


「馬鹿かお前らは、考えろ、今の魔法の位置を、あいつが考えそうな事だ、先をよんで動いてやがる。」


「だからって私達が負けるはず無いでしょ。」


 イライラを隠しもしないランド、そんな彼を見ながら溜息をこぼすシャラが、ギルに視線を向けてどうにかしてと訴えかける。


「問題ない、こちらの策も順調、奴らがどんなに足掻こうと結果は変わらん、今はゆっくり進めて行けばいい。」


「チッ、分かった、数分休んだらダンジョン地帯へ移動だ、このままこの森を制圧しておくぞ。」


 協力者によって、あっち側へ妨害工作が行われる事を昨日の晩にギルから聞いているメンバー、ランドもギルの策略に一目置いている事もあり、彼の言葉には従う。


「あいつが絡むと短期なのよね、口しか出せない奴に何であそこまでこだわるのかしら。」


「同郷らしい、我も詳しく聞いたことはないが、奴の掌の上で操られていた等と零したことがある。」


「ロイドの野郎が冒険者になる為に、ランドの兄貴を引っ張り出したらしいですぜ、戦いは任せっきりで賞賛は持ってくもんだから、溜まってんでしょうよ。」


 落ち着きなく辺りをぶつぶつ言いながら歩くランド、そんな彼を、チラチラと見ながら神速の三人のメンバーは一抹の不安を覚える。


 休息が終われば横に等間隔に広がった南のパーティーが一斉にかけ出す。


 森の木々を避け、目に付いたモンスターは一撃で仕留める前衛職の者達、その後の打ち漏らしをタンクが足止め後衛職の者が確実に仕留め死体の道を作る。


 実力者揃いと噂されるだけあり、南の上位者達の実力は本物であった。


 順調に進む討伐、魔食が5割進む頃には打ち合わせ通り、森の支配権は彼らのものとなっており、一同は次の行動の為準備を進め始める。


「よし、B級は森を利用して防衛網を固めろ、必要なら後ろの奴らを使っても構わねぇ、A級の5パーティーはこのまま俺達と共に進軍するぞ。」


「はぁ、はぁ、ちょっと、たいへ……ん、なの、どうすればいい、黒いの、黒いのよ。」


 ランドが各パーティーリーダーを集め指示を出し、ここからだと意気込んだ所への横槍が入る。


 索敵能力がずば抜けて高い探知魔法を使用していた女が、慌て息を切らして現れた。


 大量の汗と蒼白の表情、彼女自身信じられず絶望にも似た恐怖を感じているようで、焦る気持ちが先行し、何を伝えたいか伝わってこない。


「黒い?意味が分からねぇ、どういうことかちゃんと教えろ。」


「だから、黒いのよ、あんなの見た事ない、なんなのどうやって相手すれば良いの。」


 半ヒステリック状態の彼女が喚くばかりで、一向に要領を得られず、しまいにはその場にヘタリ込み恐怖からか意識を失ってしまった。


 その場にいた全員がただ事でない出来事が起こったと、理解出来た頃にもう一人索敵をしていた男が彼女が伝えたかった本当の言葉を伝えにきた。


「やべぇ、大軍だ、土煙が酷くて総数は分からねぇが、ダンジョン方面から無数のモンスターが押し寄せて来てやがる。」


 男の言葉に集まっていたリーダー格と神速のメンバーが森の出口ヘ向かい広がる平原の先を見る。


 彼らの目にはまだ姿までは見えないが、立ち上がる砂煙だけは確認する事が出来た。


「おい、後ろの奴ら全員連れてこい、ここで総力戦だ、物資から何からこっちに持ってこさせろ。」


「ちょっとあんた達、魔法使えるやつら集めて、少しでも敵減らすわよ。」


「弓を使えるやつ奴も集めろ、さっさと動け、先手打たねえとあの波にのまれるぞ。」


 彼ら南の冒険者は知らなかったのだ、ダンジョンブレイクがどういう意味なのか。


 その恐ろしさを体験してこなかったが為に、ダンジョンが無数に存在する、東側でどんな状況が起こり得るのかを予想出来ていなかった。


 何故東の冒険者がお祭り騒ぎを毎年行うか、その理由を彼らは身を持って知る事となる。

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