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東支部のフェスティバル(後編)

 魔食日の前日、一つの酒場が貸切にされ、東の冒険者が一同に集まっていた。


「女将、申し訳ないね、無理を言ってしまった。」


「構わないさ、うちの常連だしね、何よりシュウ様の頼みとあっちゃね。」


「私は討伐には戦力に慣れないからね、免除もされている、これくらいは力になってあげないとだからね。」


「それを言ったら私達もさね、シュウ様の親衛隊の為に冒険者やってるだけだからと、支部長さんは私らも強制招集を免除してくれているしね。」


 特Sのシュウは殺傷をしない、その為彼は討伐依頼を全面免除されている。


 彼の依頼に同行するオクサマーズも同種の扱いを受けていたりする。


「さて、明日の件だ、今回は皆俺の指示に従って貰うがそれで良いか。」


 何時もの道化メイクも装備も身に纏わず、鉄扇を手に持ち集まった者達に言葉を告げるのはロンドだ。


 その言葉に集まった数十名が同意の声を上げる。


「今回はパーティーリーダーに指示を出し動く事になるが、各々のタンク、魔法士には初めに先に動いて貰う為に別行動してもらう。」


 ロンドとしては、二度と着ることのない装備だと思っていた装備を身にまとっている。


 神速で軍師と呼ばれていた頃の装備、今の今まで封印していた彼のもうひとつの職業である。


 今回の元パーティーの暴言には彼自身怒りを覚えていた、ただ、彼はデメリットを考えあの場で問題を起こさないように耐えていたのだ。


 その上、今の自分の仲間をも愚弄する言葉を吐いた神速を許す事は出来ず、指揮して欲しいとの何時もは断る願いを聞き入れて今に至る。


「まず、皆にはうちの元パーティーが失礼をした、俺が止められず不甲斐ないばかりに嫌な思いをさせてしまい申し訳ない。」


 頭を下げる彼を攻める者は居ない、あの場で彼が怒りを顕にすれば、それこそ相手の思うつぼであり、責任問題を此方が問われる事は明白だった。


 彼らもその事を理解しているからこそ、彼には何も言わず、その謝罪をただ黙って聞く。


「あいつらへの皆の怒りも分かる、俺は今回尽力させてもらう、南に目にもの見せてやろう。」


『おぉぉぉぉ。』


 歓声が夜の街に響く、馬鹿にされた恨みは必ず返す、東の裏規約に書かれる文言によって、彼等の闘志も燃え上がる。


 唯一知らないのは不遇な男、仕組まれ支部長にされていた事さえ気づいていない、ストレラのみだったりする。


 ――――


「昨日の指示通り各自の持ち場へ向かってくれ、各々の持ち場で待機、状況を数分単位でこちらに報告してくれ。」


 タンク一人、魔法士二人、計8組二に別れたチームが作られ、それぞれのパーティーメンバーが護衛として追従する。


 攻撃系の魔法士と合同パーティーは、それぞれの持ち場へと走り去る。


 魔食が始まるまでに、彼らは割り振られたダンジョンへと配置に着く。


「雷班到着。」


「風班到着した。」


「氷班到着よ。」


 数十分もすれば、近場の目的地だったチームから到着の声が聞こえる。


 各パーティーには通信役となる補助魔法士が一人存在し、本部となっている東門前の前で、担当の魔法士が対応する。


 伝達魔法は指定したものへ送信する事は出来るが、魔法士でも無い限り習得しているのは珍しい。


 使用方法も合図にのみ使うなど、ほぼ無価値である事が多い、だが、今のように使用出来る魔法士同士を繋げられれば、通信手段として有用性を発揮する。


 ロンドが提案した時には、誰もここまで機能するとは思っていなかった。


 元々ルーキー時代に使用するだけで、パーティーの連携が取れてこればお蔵入りするような魔法であるのがその原因である。


 数名魔法士を有するパーティーも多いわけでもなく、分散するメリットも冒険者にはない、その為このような使用方法をする者は居なかった。


 しかし、今回は集団戦であり、情報の共有が重要になってくる、その為、使いがってが悪いとされるゴミ魔法にも日の目が当たった。


「ロンド、全パーティー到着したわよ。」


「分かった。後少しすれば魔食が始まる、全隊詠唱開始。」


 昨日打ち合わせた通り魔食が始まり、ロンドが選抜したダンジョンから、一弾目のダンジョンブレイクが始まる。


 太陽に影が生まれ、一斉にダンジョンから濃厚な魔力の霧が立ち込め、辺りに広がる。


 溢れ出た魔力の霧の中で蠢く影が、今にも弾けそうな勢いで霧の広がりを待ちながら、ダンジョンから溢れかえる。


「各隊、しっかり見極めて攻撃開始。」


 皆既魔食と言っても、誤差はあれどロンドの予想通り事象であった。


 引き起こされるダンジョンブレイクは、魔力の霧が一定範囲に広がり、第1陣のモンスターが特定の範囲内に溢れかえる所から始まる。


 彼はそれを見越し、軍隊連携の取れるモンスターが多く生息するダンジョンにメンバーを配置、初撃で殲滅する策を講じる。


 霧の広がりが一気に進む、モンスターの飽和する瞬間を待ち、詠唱を終えた魔法士達が己の最高火力の魔法を放つ。


 各所で様々な上級広範囲殲滅魔法が、ほぼ同時に怒号を挙げた。


 割り振られた隊名と同じ魔法が、本部からでも目視出来る形でその力を発揮する。


 ひとつの場所では炎の渦が上空へ火柱を作り、他でも雷鳴が鳴り響き無数の閃光を発生させ、巨大な竜巻が巻き上げたモンスターを切り刻む場所も存在する。


 こうして、長い長い一日が幕を開けた。

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