東支部のフェスティバル(前編)4
「支部長、下で他支部の冒険者と揉め事起こってます、どうにかしてください。」
扉を勢いよく開くなりそう叫ぶ職員、今日はルルセラとポルンが休みであり、変わりのナーネルも所用があり外していた。
事務を担当する者が一時的に受付に立っていたのだが、慣れていないものだからすぐ様ストレラに報告にしに来たのだろう。
「なんでまたこんなタイミングが悪い時に……」
ストレラは重く感じる腰を椅子から起こし、階下の様子を覗き見ることにした。
「……東が不甲斐ないばかりに手伝わされるとはな。」
(バカヤローー、そんな事言ったら……言わんこっちゃない)
殺伐とした空気に頭を抑え溜息をついて、ストレラが心の中で悲鳴をあげる。
(どうする、俺が収めるのか、あの空気を?なんの罰ゲームなんだこれは)
今にも暴発しそうなこの空気、今出来る事はひとつ、どうにか止める手立てを考える時間を稼ぐしかない。
無策ではあるが行動する事に決めた彼が階段を降りていく。
「おいおい、冒険者が街で暴れないでくれよ、俺の仕事が増えるんだから。」
ストレラの声に全員の視線が彼へ刺さる。
「殺気立ってどうした、こんな所でまさか殺傷沙汰なんて起こさないよな?」
「おい、ストレラ支部長、こいつらの態度はなんだ、教育しろよ。」
「そうよ、上位者を敬う態度もないじゃないのよ、だから吐き溜めなんてなんて言われるのよ。」
殺気に当てられて震えていた、神速の二人が彼へ向けて講義を行う。
「冒険者は自由だろ、こちらとしてはやる事やっていれば態度なんて気にしないからな。」
二人の言葉を聞いて大体の流れがストレラでも想像がつく。
ロンドの元パーティー神速、彼らから追放されたという所までは彼も知っているが、何が原因かは聞いていなかった。
(追放なんて結局は使えないか僻みや嫉妬だからな、ロンドの能力鑑みれば嫉妬心からなんだろう、自尊心相当強そうだしな、こいつら……)
態度は傲慢、自分達の言動はかえりみず、自己の意見だけを通す言い分、ありがちな当て馬パーティーの姿がそこに居た。
「巫山戯るなよ、俺達に対してこの態度、講義させてもらう。」
「あぁ、分かった分かった、南から正式に抗議文でも送ってくれ、今は君達早く帰ってくれないか?この雰囲気の原因を取り除かないと収集がつかない。」
「馬鹿言え、俺達が帰る必要は無いだろ、早くこいつらを追い出せよ、殺気を放つ馬鹿どもだろが。」
(その原因作ったのお前だし、どうせロンドがやり過ごそうとしたのに、お前らが自ら自爆しに言ったんだろう)
腐っても支部長、基本的に頼りないストレラではあるが、状況把握の能力や対応力はそれなりに有している。
ただ、彼は大体やる気がないのだ、面倒事にはなるべく関わらず、後ろにこもって後始末だけをする日陰者の中間管理職でいたいと思っているだけ。
表に出てこようとしないから、冒険者達からの評判も扱いも低くなるだけなのだ。
「俺にそんな発言力はないって、そんな事が出来るなら問題児集団なんて言われてないだろ?形だけの支部長はことなかれ主義何です、だから、要望には応えてやれないな。」
こうは言うものの彼の言葉ならば、この支部の冒険者なら快く応えるだろう、別にストレラの立場は彼らにとってそこまで低くもなく、信頼もされている。
ストレラ自身も彼らが抜いた刃を、収めてくれるだろうとは思ってはいるが、彼自身身内をバカにされた事が心のどこかで引っかかっているのかもしれない。
その為、面倒な事になる気しかしない、神速の退場という解決策を取ろうとしているのだ。
「馬鹿にするのも大概にしろよ、俺らは神速、Sランクパーティーだぞ。」
「(笑)が抜けてるっつうの。」
どこかしらか聞こえてきたボヤきに青筋を立てるランド。
その手が両腰の剣の柄を掴み、さらに空気を重くする。
(やめろぉぉぉ、それ以上はヤバい、流石に止められなくなるって、誰だよボヤきやがったの)
結局、自分の選択が自分を貶めることになる、ストレラの宿命なのか、一気に場の空気が張り詰める。
流石に剣を抜けば歯止めが効かなくなる。
「それ以上は辞めとけ、いくらお前らでもただじゃ済まなくなるぞ。」
緊迫した空気を諌めたのはロンドだった。
柄を握るランドの腕を掴み、奇抜なメイクで覆われた視線だけは冗談を許さない真剣な目付きになっている。
「ちっ、お前に言われなくても……」
彼の手を振り払い不機嫌を顕にしながらも、馬鹿な行動を中断する。
一時的に危機は去ったが、神速も意地になっているのか、退場するという考えはないようで、以前何時つくかも分からない爆弾の導火線が燻る状況となっている。
(どうするか、このままじゃ結局爆発するぞ……)
膠着状態で、ガス抜きの方法も思いつかない、このままでは結局向かうところのない怒りが、争いの火蓋を開けてしまうことになる。
誰かが空気を変えてくれることを願うストレラ。
こういう所を他人任せにするから、痛い目を見ると彼が学習することはないのかもしれない。