東支部のフェスティバル(前編)2
「なぁなぁ、もうすぐ魔食日だよな。」
「今週だっけか?今回はいつもの様にはいかねえだろ。」
「おい、今年はうちが栄光をかっさらうぜ。」
「確かS級は各国に派遣されるんだろ、今回ばかりはチャンスだよな。」
「結局目立つのは実力者かお笑い担当パーティーだからな、夢見るなって。」
魔食日が近づけば近づく程各支部の冒険者の気分は落ちていく。
それは強力なモンスターの侵攻による危機感が増す為であり、それが普通の冒険者の在り方だからだ。
だが、流石東支部、酒場の冒険者は盛り下がるどころか盛り上がり、その日を待ちわびている様にも思える賑わいを見せていた。
「相も変わらずここの賑わいだけは理解出来ん。」
「超危険地帯だろ、ダンジョンブレイクとなれば、他の地域とは比べ物にならない数の混成モンスターの群れが押し寄せる。」
「危険度も高い上に予想出来るモンスターの対策をする事も出来ない、対策出来る他の支部でさえ、支部内は不安が充満してるってのにお気楽だよ。」
「これくらい豪胆でなければ、此処ではやっていけないのだろ、この時期は彼らにはボーナスの時期らしいから。」
「要のS級派遣もないんだぜ、なのにあの態度、死にたがりか、頭にネジひとつもついてないんじゃないか。」
この時期の東支部には、他支部から数組のパーティーが依頼を受けに来る。
ダンジョンのモンスターに慣れる為であるのだが、魔食日には東の防衛戦に参加し戦力の増強として、派遣されることが決まっている。
他と違いダンジョンが基本の狩場である東支部だが、モンスターが活発化すると至る所でダンジョンブレイクを起こす超危険地帯であり、その分手厚い優遇も受けられる。
本部からはS級戦力の派遣、物資の優遇、街の職人からは無料サービス等、危険度におおじたそれ相応の優遇を受けている。
その一つが他支部からのパーティーの派遣、他とは違い一つでも街や村が消え去るダンジョンブレイク。
それが数箇所で一斉に起こるのだから、その脅威は計り知れない。
今回は皆既魔食日であり、全体的な脅威度も高い為、その殆どの優遇が受けられない状態になっている。
その中でも数に限りのある戦力を削り、東に派遣された西のパーティーが彼ら『双璧の蒼穹』である。
他にも西から他二パーティー、北から三パーティー、南に至っては過半数のパーティーが参加している。
南が異様に多いが、これは南のモンスターが著しく現象した為、南支部の支部長判断で東へ恩を売る為に行われていた。
その背後に神速のパーティーの画策があった事は誰も知らない。
「東の人間が頭おかしいと言われる要因ともなっているが、目の辺りにするとドン引きしてしちまうぜ。」
「モンスターの生息域で数日過ごすのが当たり前なんだろ、他と違い道中に村があったりする訳でもないだろうし。」
「んん〜?あれれ、ラシェリラじゃぁないの。」
支部の雰囲気に飲まれ始めていた彼らの後ろから声がかかる。
呼ばれた本人が背後を見れば、三人の男女がそこにいた。
一人はアイラブラリスタのピンクのティーシャツに黒の上着を来た少年、しっかり文字が見えるように前のボタンは全て外している。
女の方は白の神官服に杖を持っているが、もう片方には神官が持っているのがおかしい酒瓶が、しっかり握られている。
最後に自身の名を呼んだであろう男。
軽装に身を包み、動きやすく腰には二丁の短剣が左右に装備されているが、その顔は奇抜なメイクで塗り固められ、帽子は二つに別れた先にボンボンがひとつずつついている。
そこにはピエロの三人がたっていた。
「だ、誰だお前は……」
気さくに声を掛けてきたことから、知り合いで間違いはないのだろう。
しかし、記憶を辿ったところで、彼女にはこんな巫山戯た知り合いに見当がつかないでいた。
他の二人なら南支部所属出会った時、見かけた事がある顔ではあるが、真ん中の道化師のような男だけはどうしても記憶の中と一致しない。
「あれれ?忘れられちゃったぁ。」
「ねぇ、ロンド。」
「なぁにかな、今話してるんだぁけども。」
「リーダー、昔の知り合いだったら今のリーダー見ても気づくはずないと思うけど、僕らだって気づかなかったし最初。」
「あぁ、なぁるほど、ロンドよロンド、久しぶりだぁね。」
「……っ!!」
三人の会話内容から旧パーティーメンバーだと気づいた彼女だが、あまりの変わりようと彼の変貌に目を見開いて驚く。
「ロ、ロンドなのか……そ、そんなに絶望していたとは……」
彼の変貌ぶりにあの事が関係しているのだろうと察し、哀れんだ顔で彼を見据える。
「多分勘違いしてるねぇ、別にわたぁしは奇術師に転職しただけなのさぁ。」
「変わっていないね、少しほっとしたよ。」
どう考えても嘘でしかない言葉、見た目は随分と変わって驚きを隠せなかったが、昔と変わらずのロンドの姿を垣間見て彼女が安堵の笑みを浮かべる。
「ちょっとぉ、話聞いてぇ。」
「ホント馬鹿よね、誰だって気づく嘘をつくんだから。」
「何より顔に出てるから、リーダーのそういう所、昔っからみたいですね。」
彼女の反応にマーティンとソーイが察し、呆れ顔を顕に溜息を吐くのであった。