東支部のフェスティバル(前編)
突然だが、南支部には有名なSランクパーティーが居る。
そのパーティー名は神速、パーティー名通りのスピードで依頼を遂行し、歴代最速の速さでSランクパーティーへと駆け上がった指折りのパーティーである。
ただ、最近の彼らは少し不調なのではないかと噂されている。
数年前にある人物を追放してから、彼らの勢いは衰えたとも噂されていた。
実力も速さも相変わらず目を引くのだが、昔の彼らを知っている者は皆、口を揃えて無駄が増えて速度が落ちたと口を揃える。
「くそっ、巫山戯た事ばかり言いやがって、俺達がお前らより速いのは変わらねえだろうが……」
「言わせておけば良いっすよ、あいつら僻んでるだけっす。」
「そそ、私達の実力が羨ましいだけよ、あいつが抜けたからって、私達はやっていけてるわ。」
「しかし、このまま言わせて置くのも面白くはないわな。」
リーダーの双剣使いランド、レンジャーの出っ歯男ガジル、高飛車なフェンサーのシャラ、黒装束に身を包む細マッチョのギルが神速の現メンバーだ。
彼らは毎回耳に入る他からの小言にそろそろ限界が来ていた。
後ろから指示を出すだけで特に何もしなかった男がパーティーの要だともてはやされ、やっとの事で追い出し名声を自分達が手に入れた。
しかし、一年も経たずにその名声は、居ない男の元へと返上され、今ではAランクへの降格も有り得ると噂される始末であった。
「くっそ、俺達はSランクの神速だぞ、南支部の名声も俺達が居るからなのに、他の冒険者だけでなくギルド職員まで対応が雑になってやがる。」
「何か手を打たないと降格刺せられるわ、速さを追求する余り怪我も酷くなってタンク役が入れ替わり立ち代り出し。」
「評価が下がるのはタンクの動きが悪いからっすよ、あいつと共に辞めやがったラシェリラが抜けたのは痛いっすね。」
「まぁ、我達の名にあやかりたいタンクはいくらでもいる、今は実力を証明してやれば良いのさ。」
ギルが見えない口元を不敵に歪ませ目を細めながら全員に視線を向ける。
「ギル、何か策があるのか。」
「もったいぶるんじゃないわ、早く答えなさいよ。」
「魔食日が近い今のうちに南のモンスターを減らし、東の討伐に参加出来るようにすれば良い、そこで奴との差を見せつければ我達の評価も回復するものよ。」
魔食日とは魔力が高まる、一年に一度起こる現象であり、現代で言えば日食の事である。
今回は数千年に一度の皆既日食であり、魔物の力がそれだけ強まる年でもあった。
「こちらの質はあちらと比べ充実している、今のうちから対処しておけば東の援助に回される事は間違いない。」
「そこで俺達が活躍すれば、知らしめる事が出来るというわけか。」
「でも、今のあいつとやり合っても意味が無いわ、私達があいつの司令無しで上回る姿を見せないとだし。」
「そこも考えておるよ、奴を焚き付けてやれば良い、毎年断っておるようだが、奴は指揮者として担ぎあげられるらしい、そこに我らのちょっかいがあれば……」
「へへ、あいつも意固地になって出てくるって事っすね。」
神速のメンバーが悪巧みを企み、負のオーラ周りに垂れ流す。
彼等の評価が低くなっているのには、こういった浅慮な行動も含まれるのだが、彼らにはそれを理解する頭はないのである。
何しろ、悪巧みの相談を酒場のど真ん中に陣取ったテーブルで、周りの視線も気にせず話しているのだから。
周りの者は呆れてまた馬鹿な事をと思いわするが、実力的だけはあるだけに、口に出して罵る者がその場には居ない。
それもまた、彼らの鼻を高くしている一因となっていたりする。
「今から奴の惨めな姿が目に浮かぶ、上から目線で俺達を見下して来たんだ、追放しただけじゃ気が収まらなかったところだ。」
「ついでに東のキチガイ達にも一泡吹かせて借りを作る事も出来るわね。」
「あいつら迷惑ばかり掛けるんでウザかったんすよ、これでアイツらも少しは自分の立場って言うもんを理解出来るようになるかもしれないっすね。」
小悪党にしか見えない彼らが、S級の称号を持つ資格が無いと思われるのは必然なのかもしれない。
計画が決まれば彼らは早急に行動を開始。
自分達にごまをする下位の冒険者に声をかけ、ひと月先の魔食日に向けて準備を進めるのだった。