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焔の絶叫

 ストレラが不在である事は瞬く間に、東支部の冒険者達に広がりを見せた。


 同時に要注意人物の確保、注意喚起もその日のうちに冒険者達の連携で速やかに行われた。


 しかし、前回の火種であったレリラの捕獲が出来ていない噂も同時に広まり、嵐が過ぎるのを待つように次の日の東支部で依頼を受ける者は居なかった。


 そして、問題のレリラを追う焔の三人は絶望せざる負えない参上を見ていた。


 レリラとパルレを追いかけ、東と北の境界線に位置する草原地帯を一日掛け、探したが広大な草原地帯では痕跡を見つけられないでいた。


 初心者の薬草採取にもうってつけの草原である為、二人の敵になるモンスターも居ない事が、かえって痕跡を見つけづらくしていたのが大きい。


 そして夜どうし探すも見つける事が出来ずに二日目に突入した朝、事件は突如起こった。


 朝日も登りきっていない昼前に、突如彼らの上に血の雨が降り注いだ。


「うわっ、血の雨……間に合わなかったか。」


「ちょっと、これくさっ!嘘、ゴブリン、なんで……」


 天空から降り注ぐ血の雨、これに関して十中八九レリラの仕業である事は間違いない。


 ただ、悪臭漂うゴブリンを爆殺する程彼女は馬鹿ではない。


「取りあえず向かうしか無いだろう、オーレン早く行くぞ。」


 盾で血の雨から身を守るロトンが降り注ぐ雨の中心地に向かい走って行く。


「ロトンずりぃ、俺も入れろよ。」


「俺一人庇うのが精一杯だ。」


 文句を言いながらオーレンもロトンの後に続く。


「レリラ、覚えてなさいよ、私を怒らせた事後悔させてやるわ。」


 そんな二人をあっという間に追い越し、鬼の形相でシャーシャがレリラ達がいるであろう場所に走り去る。


 その姿を見た二人の背筋に悪寒が走ったのは言うまでもない。


 二人が辿り着くと、既にシャーシャに取り押さえられたレリラが、たんこぶを作った状態で地に伏していた。


「あわわ、シャーシャちゃん怖いよぉ。」


 赤く染まった状態のパルレが地面に座り込み、怒気に染まるシャーシャを見上げ震えている。


「で、なんでゴブリンなんかにあの魔法使ったのよ。」


「あいつら私をこけにしたのよ……ムカつく。」


 レリラの話によれば初歩魔法で応戦してはいたのだが、メイジゴブリンが紛れていたらしく、魔法障壁でレリラの魔法を防いだのが事の発端であった。


 いやらしい顔で笑いこけるゴブリン達にレリラが切れ、ブラッディー・レインで囲むゴブリン達を爆殺したのである。


「わざわざ空中で爆殺せんでもよかっただろうが……」


「風魔法の特訓も今回の目的だったのよ、良いじゃない、私がしでかすなんて何時もの事でしょ。」


「今回に限っては大問題だ、支部長がいない。」


「うそ……わぁん、レリラちゃんまたやらかすなんてぇ、巻き込まないでよぉ。」


 レリラの開き直りに頭を抱えるロトンの放った言葉にパルレが泣き出し、レリラに関しては青い顔をして言葉を失っていた。


「やらかした事は仕方ない、他には悪いが甘んじて非難を受けるしか無いだろうな。」


 辺りの惨状を見れば言い訳も出来ない、何より相手がゴブリンである以上この辺りの薬草は全滅することは確実、報告も上がり彼らの罰は避けられない。


 憂鬱な気分のまま焔は支部へ帰還する。


 帰還した焔は案の定ナーネルの無表情の冷たい視線を一身に受ける事になったが、冒険者からの非難だけはまぬがれた。


 連帯責任を恐れ、皆依頼を受けておらず、罰を受けるのは彼らだけであったからだ。


「あれぇ?今回は君達だけ?期待してたんだけど、ちょっと残念だね。」


 冒険者からは懲罰室と呼ばれる部屋で、待ちわびていた一人のぐるぐる眼鏡をかけた妙齢女性が、彼らを見て落胆を隠す事もなく告げる。


「今日はもう良いよ、君達は給金貰って帰りな。」


 簡素な服に身を包んだ少年少女達に向け、彼女が声をかけると今まで机に向かっていた彼らが次々と部屋を出ていく。


「それじゃ、宜しく頼むよ焔の諸君、今回は注文が多くてね、何時ものスラムの子達だけでは終わりそうになかったんだよ。」


「スーレンさん、問題が起きる事前提で受注しただろ。」


「全く、期待を裏切らなかった君達が悪いんだよ、私も今回ばかりは自分の愚かさを悔やむ事になりそうだけれどね。」


 スーレンと呼ばれた彼女が人形劇を得意とする職員であり、筆写という羽根ペンを動かし写す魔法も使える報告書類制作担当である。


 スラムの子供達に給金を出し支部の書類制作と彼らの生活の手助けにも役立っている。


 他の支部にも同じ部署はあるのだが、筆写と人形劇を使える彼女がいる東支部は他支部からの依頼もよく受ける事がある。


 今回はストレラ不在と聞き、より多くの依頼を受けていたが、それが仇となり彼女自身もノルマによる重労働が確定してしまった。


「仕方ない、魔力ポーション配給してもらおう、君達は先に始めててね。」


 席に着いた焔の一同に魔法を発動させ部屋を出ていく彼女、彼らの居る部屋には何箱も重ねられた紙の入った箱が積み重なっている。


「何枚あるんだ、これは……」


「ざっと見積もっても数万枚ね……」


「うぅ、腕壊れちゃう気しかしないよぉ。」


「何日かかるかしら、ご飯とお風呂は入りたいわね。」


「お前が原因なのに悠長な事言ってるなよ、一番働けこの爆発馬鹿。」


「はぁ?喧嘩売ってんの?買ってやるわよ?」


「望む所だ、泣かしてやるぜ。」


 口々に終わりの見えない作業に途方にくれる言葉をこぼし、レリラとオーレンに関しては口喧嘩を始めるが、彼らの手は人形劇の効果によってひたすら報告書の原書を写す。


 地下にある制作室から、死人の顔をした彼らが出てきたのは、それから四日たった頃だったという。


 その姿を見たカルト達が、ストレラ不在時に問題は起こしてはならないと心に固く誓ったのは言うまでもない。

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