東支部の不文律2
白猫亭での手伝いを終え、カルトは東支部へ向かい街の中を進む。
休息日明けは冒険者の数も少なく、いつもは活気のある通りも割と人が少ない。
「よぉ、カルト、どうだ調子は、今日は一人なんだな。」
「他は指導してもらいに行ってる。」
「カルト君、朝は食べた?良かったらこれ持ってきな。」
「ありがとう、フットに土産にさせてもらうよ、あいついつも足りて無さそうだから。」
冒険者として一歩踏み出した日から二月余り、彼も街に馴染み、若い冒険者パーティーとしてメンバー含め可愛がられている。
彼らの好感度が高いのも、街の雑用依頼等を良くこなし、街の人々との交流が盛んな事も起因している。
挨拶をしながら人気の疎らな表通りを進み、門へ続く道半ばに東支部は存在する。
朝から酒に酔いしれ高笑いする者、話し合いの為軽食を取る者。
ギルド受付はまだ閑散としているが、酒場の方はそれなりに客が入っている。
「ナーネルさん、おはようございます。」
「あら、おはようございますカルトさん、今日は何か御用ですか?」
受付越しに見上げる相手へと丁寧に会釈、彼の行動に同じくきっちりした挨拶で返す彼女。
「あのさ、師匠いる?今日の訓練の予定聞いてなかったからさ。」
カルトの一言にナーネルは少々困った表情を浮かべ、彼を見据えながら頭を下げる。
「ごめんなさい、支部長は今週居ないんです、メル、奥さんと旅行に行っていて、訓練の事忘れていたみたいね。」
ここ最近のストレラに対しての風当たりの強さを、カルトも良く知っている。
嘆きながらどうするべきか十代前半の彼にまで、意見を求める程気に悩んでいたのだから。
「そっか、師匠やっと許してもらったんだ、それなら仕方ないか。」
自らの師と呼べる相手の努力が報われたのだ、彼もその辺の気遣いが出来ない我儘な子供でもなく、すんなり受け入れ、空いた時間をどう過ごすか悩む。
「そうですね、焔のシャーシャに教えて貰うのはどうですか、彼女のレンジャーとしての能力は為になると思いますよ。」
カルトの目の前にいる女性は有能だ、有能過ぎて怖い時がある。
「もしかして、フォートとフットの訓練に他のメンバーもいるって事ですか?」
「そうですね、居るかもしれないと思ったので。」
(きっと確信があるんだろうな)
話を終えた所で先程から騒がしい酒場へと視線を向ける少年。
視線の先では先程まで寛いでいた冒険者達が色めきだっていた。
「おいっ、ピエロはまだ依頼受けてないか。」
「くそっ、何組依頼を受けた、早く人を出せ、緊急事態だ。」
「ちょっと、早く他の奴にも知らせに行ってよ、特に焔は前科があるんだから釘さしときなさいよ。」
食事処はひっくり返された食事や倒れた椅子で見るも無惨な姿であり、忙しなく飛び交う言葉の応手にカオスと化していた。
(なんだ?皆急に騒がしくなったな、まぁ、ここは何時もこんな感じか、さっさとフォート達の所にでも顔だそうかな)
未だ慌ただしく、外に飛び出す者や依頼の受領数を確認しに受付へ走る者を横目に、疑問を持ちながらも、奇行に慣れてしまった少年は支部を後にするのだった。
次に少年が向かったのは、東門付近に作られた訓練場である。
支部から数分歩いた所に、冒険者の為の広大な広場が作られている。
冒険者の為の街と言うだけあり、この様な訓練を目的とした土地は至る所にあったりする。
「あれ、カルトじゃないか?)
「あっ、ほんとだ、どうしたんだろね、やけに早く来たね、何かあったのかな?」
訓練前の柔軟を行っていたフォートとフットの二人が、通りの先から此方へと歩んでくるカルトを見つけ手を振る。
「おっ、どうした、ちゃんと体をほぐしとかないと怪我するぞ。」
オーレンが動きを止め手を振っている二人に近寄り、彼らの頭に手を起きながら顔を伺い注意を施す。
「あっ、すいません、カルトが思ってたより早く来たので気になったんですよ。」
「なんだ、今日はお前ら個人訓練だろ、もう終わったて事はないだろ。」
「その筈何ですけど、どうしたんでしょう。」
近づいてくるカルトの様子を伺いながら話す二人、その話を聞いていたシャーシャとロトンが、隣に並び立ち悪寒を感じる。
「ねぇ、嫌な予感しない?」
「奇遇だな、俺も感じる……レリラは何処に行ったんだったか?」
「確か……パルレを連れて依頼を受けに行くとか言ってた気がするけど……」
嫌な予感程当たる事が多いのが冒険者の性である。
辿り着いたカルトの言葉に血の気が失せるのにそう時間はかからなかった。