東支部の不文律
新人冒険者の為にギルド出資で運営される宿屋『白猫亭』。
そこに、タオラネパーティー改め一閃一矢のパーティーメンバーの三人が、朝の食卓に着いて言葉を交わす。
「カルト、今日はどうするんだ?」
「取り敢えずギルドに顔出すよ、先週師匠に会えなかったから今日の予定聞いてないんだよな。」
「俺らは焔パーティーの所行く事になってる、手が空いたら顔出せよ。」
「分かった、訓練が終わったらそっちにも顔出す様にするよ。」
「ねぇねぇ、そろそろ食べない?僕お腹すいてきたよ。」
予定の話をカルトとフォートがしている中、昔の小太りだった姿を、肉の引き締まった体に変えたフットが腹を鳴らし水をさす。
「ちょっと待てって、まだ女性陣が来てないだろ。」
「女は時間が掛かるんだ、そして理不尽なんだ、もし先に食事しててみろ後からネチネチ言われんだぞ。」
「あらら、私ってそんなに心の狭い女に見えてるのかな、どうかな?」
ボキボキ、ボキボキ
いつの間にか、フォートの背後で指を鳴らし、角を生やしたフルーネがにこやかに笑って言葉を呟く。
対面にいたカルトは引きつった表情を、背後に立たれたフォートは体を硬直させて大量の汗が湧き出る。
そんな二人を見て首を傾げるフット、振り返った先に視線を向け恐怖のあまり椅子から転げ落ちる。
そんな最近の日常を見ながらクリアは溜息をついて呆れる。
「さて、朝ごはんにしましょ、私もタチアナさんの所に行く予定だし。」
「じゃあ一緒に行くのですわ、今日は青蓮華と黒蝶は一緒に訓練するらしいから。」
用意した食事に手をつけるフルーネとクリア、一閃一矢のパーティーメンバーが揃い食事を始める。
「何で俺まで……」
「ほら、パーティーの失態はリーダーにも責任があるって事だよ。」
「ご飯もう食べていいよね。お腹ぺこぺこ、いただきまーす。」
たんこぶを作り意気消沈するカルト、そんな彼へ重なるたんこぶの山を築くフォートが悪びれもせずに要らぬ事を口走り、彼からの冷たい視線を浴びる。
そんな事を気にせずに空腹も限界なのか、他のメンバーの返答を待たずして食事に手をつけるフット。
この五人が今の一閃一矢のメンバーである。
カルトが合同で訓練を受けたタオラネのメンバーとパーティーを組んで出来たのが一閃一矢。
クリアだが、当初は青薔薇のパーティーに加わる話も出たが、中堅冒険者と共に行動しても実力がついて行かなければお荷物になるだけと、申し出を却下。
そんな時に、戦闘補助職が不足していた一閃一矢を、ナーネルが冒険者登録をしたばかりのクリアへ、紹介した事でパーティーを組む事になった。
「それで、今日は皆師匠の所に訓練って事か。」
「最近は大体そうじゃない?ストレラさんの思いつきで新人冒険者の能力向上計画の試験運用パーティーに選ばれてからずっと。」
「クリアが居たのもあるんだろうな、何だか誰かが糸を引いてる気もしなくはないんだよな。」
「あはは、それなら一人考えられるだろ、クリアはナーネルさんの紹介だったし、あの人色々謎多いからあながち当たってるかもだぜ。」
突如としてギルドから指名依頼という形で行われた師弟制度。
特殊な魔力運用方を使用出来るカルト、元々ストレラが制御出来ないままにしておく訳にはいかないと、カルトを見始めた頃に考えられていた計画であった。
その後、クリアが桃華に祈祷師の教えを貰う事になった事で決め手となり、それぞれの能力にあった師匠をつける事となったのである。
「糸を引いてるとかそういうのは別にいいんじゃない?私達には得しか無いんだし。」
「そうですわ、依頼料を貰いながら訓練を受けれて、自分を高められる、流石ストレラ様ですわ。」
「クリアの師匠崇拝は天井がないよな。」
毎朝集まり談笑する彼らの話の終わりは、いつもクリアのストレラへの好感度の上昇と褒め称える言葉に三人が呆れ顔を浮かべて終わる。
忘れられているフットは黙々と3回目のおかわりをしていたりするのだが、彼が食事集中するのは何時もの事なので誰も咎めたりはしない。
「やべっ、フット何時まで食ってんだよ。待ち合わせの時間過ぎちまうよ。またドヤされる訳にはいかない、早く行くぞ。」
「クリアちゃん、私達もそろそろ出よう。今日は一緒だから、お茶の時間楽しみだね。」
「そうですわ、アキラさんのお茶が飲めますの、早く行きましょう。」
慌ただしくなる食卓の様子を眺め、他の楽しそうな姿に、自分の心情の違いに羨ましく思いながら、ゆっくりと皆が去った後の食卓の後片付けを手伝うのであった。