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地獄の労働

 俺は今凄まじい量の書類の山に埋もれている。


 目を通し、サインをするだけなのだが、それよりも早く新しい書類が運ばれてきてはデスクを埋めつくしていく。


 終わりの見えない苦行が続く中、目がかすみ文字を読むのも辛くなってきた。


 綺麗に書かれた書類ならまだ読めるが、冒険者の報告書になるとそうはいかない、読みながら解読したり、伝えたい事を理解して整理し読まなくてはならない。


 頭は疲れ、目は疲れ、本来ならばここまで過酷な状況にならない。


 先日の一件で1日分の仕事を滞らせた為にしては多すぎる量に、目の前でうきうき気分で、ナーネルちゃんとお茶を楽しむメルに声をかける。


 「メルディーさん、なんで来週の日付の書類が多数混じってるんでしょうか?」


 「んっ?……ストレラ約束したじゃん、旅行行ってくれるって。」


 出されたクッキーをもぐもぐ子リスの様に食べ、飲み込んでから不思議そうに小首を可愛らしく傾ける。


 「その姿がまた可愛い、小動物を愛でる人の気持ちがよく分かる……じゃない、あれ、もっと時間を作れた時の約束じゃなかったのか。」


 「ナーネルにもお仕事ちゃんとするか監視してねって言われてたし、この際その時間も作っちゃおうと思って。」


 「約束は守らねばメルに愛想つかされますよ支部長。」


 何から何までナーネルちゃんの手の中で、転がされている気がするのは間違いではないだろう。


 来週いっぱい俺が居なくても問題ないよう、サインのいる書類は殆ど回ってきている。


 何なら再来週の使うかも分からない無駄な書類が混じってる辺り、嫌がらせをする為に用意した悪意がひしひしと繋がってきている。


 この最近の自分へのしわ寄せの仕返しなのではないかとも思える。


 「ナーネルちゃんも根に持つタイプだよね。そんなんじゃ嫁の貰い手も……」


 「何か?」


 見えなかったけれど、俺のこめかみを掠め何かが後ろの窓を貫いて走った。


 彼女の手を見れば先程迄持っていたはずの、羽根ペンがどこを見ても見当たらない。


 「さっさと終わらせて下さい、依頼報告もまだ残っているのですから。」


 「あ、はい、えっ、まだあるの、いくら何でも今日はもう無理じゃないかな?ほら、明日は休みだしまた週始めからで。」


 「終わるまで帰れないよ?もう私来週休み貰ったから明日も使って全部終わらせてねストレラ。」


 もう何処へ行こうかナーネルちゃんと二人で、珍しいダンジョンの場所を地図で教えて貰っている彼女を見やる。


 楽しそうにはしゃぐメルディーを見ていると疲れが癒える。


 「んっ?待って、来週?この量徹夜しても終わらないんじゃ、出発はいつにする気。」


 「ここなんかどうですか、少し時間はかかりますが南の王国の飛竜の洞窟です、景色が綺麗だったのを覚えていますよ。」


 「南か、二日はかかるよね、3日間ダンジョンには潜れる時間はあるけれど……どうしよ。」


 俺の体の心配など微塵もない、過酷スケジュールをたてる二人の会話に嫌な汗が溢れてくる。


 「よし、ストレラ早く終わらしていこうね。」


 「えっ、終わったらすぐ出発……それは流石におじさんには過酷過ぎないかな?」


 「問題ないでしょ、今だって体はちょくちょく動かして居るんだし。」


 無理難題を突きつけられていようと、今の俺に抵抗の文字は浮かばない。


 また機嫌をそこねればそれこそお許しも出ず、約束を守らない男と皆から責められるに違いない。


 これ以上の苦痛は俺もハゲてしまいそうなので勘弁願いたい。


 「分かりました、分かったから僕にも紅茶入れてくれます。後、これ以上増やすのは流石に勘弁願いたい。」


 定期的に持ってくるように言われていたのか、代わる代わる書類を持ってきていた職員が、扉を開こうとした瞬間に相手と目線を合わせ抗議する。


 此方の言葉を聞きながら視線を合わせられ、中に入るに入れなくなった男性職員が、ナーネルちゃんに助けを求め視線を送る。


 「仕方ありません、今回はこれまでですね。もう少し利用出来るかと思いましたが残念です。」


 隠す気もないようで、あっけらかんと状況を利用し、仕事を回していた事を悪気もなく口にする彼女を見ながらため息がこぼれる。


 「もう、俺の待遇もう少し良くなりませんかね、かなり頑張ってると思うよ?」


 「まだまだ足りません、仕事に振り回されているようでは当分はまだまだ私がテコ入れしないといけませんね。」


 「流石師匠だね。ストレラは可愛がられて羨ましいよ。」


 「誰も嬉しくない!」


 「喋って無いで早く終わらせてください、私達も世話はしてあげますから。」


 新しく入れた紅茶をテーブルへ置き、ちゃっかり先程持ってこさせた書類を他の書類に上乗せしながら彼女が微笑む。


 「容赦無さすぎませんかねえぇぇ。」


 夜が更ける中、東支部長室の明かりが朝まで消える事はなかった。

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