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二人の誓の場所4

 そこ迄広くもない、精霊の花園。


 一階層、二階層は別れ道も多く迷う者もいるが、あれだけ向かう道を示す絨毯がひかれていれば、子供でも最下層の三階層へ辿り着ける。


 最下層に着けば後は一本道、木が並ぶ直線の突き当たりを右に曲がれば目的の花園である。


 「ストレラ、何があったの。」


 「っ、メル!どうしてここに。」


 全力で走り抜けた一本道をスピードを殺し曲がり切り、そのままそこに居るであろう者の名を呼ぶ。


 そこには、今まで血に濡れた姿を見たことがない相手の血まみれの姿があった。


 「ど、どうしたの、怪我ない?大丈夫?」


 流石の彼女も、異常な程服を血に濡らした彼を見て、同様が声に現れる。


 「あぁ、問題ない、ただの返り血だから。」


 疲れた顔をしながら、花園を見渡せるベンチで疲れを癒していた相手へメルディーが駆け寄る。


 見た目は赤く染まる服が悲惨だが、特に怪我等は見当たらず、言葉通り無事らしい。


 「それより、どうしてここに?」


 「私が聞きたいんだけどね、仕事ほって慌てて来たらしいね、ナーネルが連れ戻してって依頼が来たの。」


 「ははは、流石ナーネルちゃん、トップのS級冒険者をお使いで使えるのはあの人だけだろうね。」


 「で、どうしたの、ストレラがこんなに焦ってダンジョンに来るなんてさ。」


 彼の頬に付いた血を服の袖で拭い、疑問を投げかける。


 「あぁ、それはモンスターの多量発生が報告に上がってきてな、ここが荒らされたくなかったんだ。」


 妖精の鈴(フェアリーベル)、ダンジョン妖精の花園最下層に咲く。魔力回復薬の素材になる花で埋め尽くされた花園。


 採取も定期的に行われているが、妖精と名のつくダンジョンでこれ程多量に群生しているのはここだけである。


 「ここの妖精の鈴が無くなっちゃうと大変だもんね。」


 「んっ?確かに無くなると困るが、そんな事なら俺が動く事ないだろ。他でも取れるからな。」


 「んー?」


 話が噛み合わない事に小首を傾け、彼を見据えるメルディー。


 「ここは俺にとって大事な場所だからな、約束もあるし。」


 「……! 約束は覚えてたんだ。」


 ストレラの疲れた表情が、彼女の含みのある言葉に段々と焦りの表情に変わり、多量な冷や汗を流し始める。


 「いや、悪かったって、メルちゃん、そろそろ許してくれないかな。」


 頬を膨らませ不貞腐れる隣の彼女を見すえ、両手を顔の前で合わせて謝りながら相手の期限を伺う。


 (膨れっ面も可愛いんだよな、流石うちの嫁さん)


 謝りながらもそんな事を考えていたのだが、メルディーがそれに気づくわけもなく、何度も頭を下げる彼と視線を合わせることも無く素っ気なく振る舞う。


 「結婚記念日に見る約束は守れなかったのはほんと、悪かった。我が最愛の嫁様、世界一可愛いメルディー様、女神でさえメルの可愛さには勝てない、許してください。」


 「もう、すぐ可愛い可愛いって、それで許して貰えるほど甘くないんだからね。」


 言いながらも薄く染まった頬が満更でもない彼女であった。


 「それはそれとして、此処は変わらず綺麗だね。」


 「モンスターも出てなかった様だから、ほっとしたよ、なんて言ったってプロポーズの場所だしな。」


 「あの時は引退する理由がそれだったなんて思ってもみなかったよ。」


 「メルはもっと自由に冒険をした方が良いと思ったんだよ、行きたい所へ行って楽しんだ方が君らしい。」


 「ストレラと一緒ならもっと楽しかったと思うけどね。」


 膨れっ面はそのままで、やっとストレラを見てくれた彼女が期待した瞳を彼に向ける。


 「俺が居るとメルは力を制限するだろ、無意識に合わせてるんだ。」


 ストレラがそれを確信したのは裏ダンジョンでの事だ、


 伝説級のモンスターを他のメンバーと、相手にしている時の彼女はまさに規格外のS級に相応しい実力だった。


 メルディーの本気を見て、無意識にストッパーをかけられていると気づいた時。


 ストレラの元に支部長の話が舞い込んだ、それから考えていたのが引退だったのだ。


 「まぁ、離れたくなかったし、かなり悩んでいたんだけど、そのおかげで今こうしてるんだ、あれは俺の中で一番最善だったよ。」


 「私も今は楽しいし、幸せだよ、料理も少しは上達してきたし、そっちも追い抜いちゃうんじゃないかな?」


 「それは無い、まだまだそっちは負けられない。」


 ゆっくり昔語りを続ける二人。


 時間は気がついた頃には太陽石が薄暗くなり、稀に存在する月光石の薄暗い輝きが花園を照らし始めた。

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