二人の誓の場所3
うわぁ、何があったんだろ。
ダンジョンに入って数分、向かう目的地は最下層になる三層の花園だが、そこへ辿り着く道のりにはモンスターの死体の道が出来上がっていた。
「ここってこんなに沢山出没するダンジョンだっけ?前はそんな事なかったよね。」
死体の隙間を走り去り、前に来た時の状況を思い出すが記憶と現状が一致しない。
依頼書を見た瞬間に妖精の花園にて異変迄読んで、他の内容を見逃した為、彼女自身何が起こったか理解していない。
その為、どういう異変か分からない、モンスターが溢れかえっただけで、あの何だかんだ真面目な彼が慌てて仕事を放り投げるとは思えない。
「余程の事がないとストレラは自分で動きそうにもないんだけど。」
そうこうしているうちに一階層の目玉である巨大な大木がある広場へと辿り着く。
「そう言えば前はここでお昼にしたよね、機嫌もお弁当の事考え出したら治ってたし、胃袋掴まれてたんだよね昔から。」
大木の前に立ち生い茂る葉を見上げ思い出す。
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「ストレラお昼しよお昼、ここならゆっくり出来るよ。」
大木を前に指を向けて楽しみにしている昼を早めに切り出す。
「ほら、食べた後気持ちよく寝れるしさ。」
「いや、寝ちゃダメだろ、まぁ、ここ安全そうだし昼にするか、さっきからうるさいしな。」
道すがら傍らでぐぅぅぅと、幾度かお腹を鳴らす彼女を見ていたのもあり、マジックバックにしまっておいた昼食の弁当を幾つか取り出す。
「どうせ食べてきてないんだろ、朝飯。」
「ほら、寒いと布団から出るの難しいでしょ、待たすのもあれだし食べてる時間もなくてさ。」
「そうだな、遅刻して、ボサボサの頭で来るぐらいだからな。」
「寝る子は育つって言うじゃん、私はまだまだ成長する為に良く寝るんだよ。」
悪気もなく胸を張るメルディー、そんな彼女に呆れ溜息をつきながらシートに弁当の重箱を広げ用意を彼が終える。
「ううん、やっぱりこれは毎日食べたい。」
さっさと広がった重箱の中からお気に入りの具材が挟まったサンドを手にして口に頬張り、頬っぺへ手のひら添えて幸せそうにするメルディー。
そんな彼女を見ながら自分もサンドを手に取るストレラ。
師匠に押し付けられる形で彼女の面倒を見る為、早10年近くパーティーを組んでいるが、この時間が二人に取って一番気を緩められる時間だった。
あれだけ豊富にあった重箱の中身のサンドは、大半をメルディーがその小さな体で食べ、二人の腹の中に全て収まる。
満腹になったお腹を抑え満足し彼女は、大木を見上げる形で身体を仰向けに寝かせる。
「すぐ寝転ぶと横にしか伸びないぞ。」
「そんな事ないよ、私食べた分は動いてるもん。」
メルディーが彼の小言に、ぷぅと音が聞こえてきそうな程に頬を膨らませ抗議する。
「まぁ、それはさておき、ダンジョンないの休憩で寝るのは辞めなさいな、髪やってやるから座った座った。」
朝のボサついた髪を手櫛だけで梳かし、ゴムで纏めただけのポニーテールの彼女。
それを聞いた途端に機敏んに上体を起こし、どうしてもらうか嬉しそうに彼女は考える。
「お団子やって、左右に1個ずつね。」
「お団子ね、街では嫌がって殆どしないのに。」
「子供っぽく見られるのヤなの。」
彼に背中を預け足を伸ばして座り、身を任せる彼女。
ストレラも取り出したくしで彼女の髪を梳かし、左右に作ったポニーテールを指先を動かし慣れた手つきで三つ編みを作る。
それを巻き団子を作り、毛先をピンで止めて彼女の頭にツイン団子を作り上げる。
「ねぇ、どうどう?」
「可愛いですよお嬢さん。」
左右の団子に手を触れながら見せつけ感想を求める彼女に、頭に手を触れながら即答するストレラ。
それを聞いてまた笑顔を作る彼女。
長くパーティーを組む二人の関係は歳の差から見ても兄妹の様なものだった。
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「そう言えば、いつの間にか自分で出来るようになってたな。」
一年前を思い出しながら、ツインテールにしていた髪を編み込み、気づけばその時と同じツイン団子にしながら呟く。
「まさか、結婚するとはあの時全然思ってなかったな、甘えてばかりでそれが居心地良くて、だから引退に機嫌そこねたんだよね。」
自分勝手な考えがあった事は認めるが、あの頃はあれが一番幸せな形だと思っていた。
「でもまぁ、今はもっと幸せであるけどね。」
大木に向けて惚気終えた彼女は、その場を離れ、目的の場所へとまた走り出す。