二人の誓の場所2
メンテで書いてたのが消えそうになり更新は遅れ、使い方も変わって苦労しました
一新されてこれからですが使い慣れて行かないと
三つのダンジョンが存在する、トロイヤから歩いて小一時間程度の所にあるラエルの森にメルディーが到着する。
ギルドから走り続け、10キロ近くを全力疾走したはずの彼女だが、流石トップレベルの冒険者、息のひとつも乱れてはいなかった。
「この森も久しぶりかな、東支部で活動してた時以来だから1年近くかぁ。」
S級となり本部へ移動となる前、まだパーティーを組んでいた頃に、最後に来たダンジョンが今回の目的地である。
森を抜け開ける視界に映る湖、その真ん中にぽつんと浮かぶ浮島がダンジョンの入口となっている。
妖精の花園、Aランク指定されているダンジョンであるが、ダンジョン内部にさえ入ればC級の冒険者でも無理無く踏破できる。
ただ、浮島を囲む湖を渡る事が困難な事からそのランク指定が儲けらている。
「そういえば、ここで冒険者引退の事聞いたんだっけ、そこから私が機嫌損ねちゃったんだよね。」
湖のほとりを眺め、前に来た時の事を思い出す。
ーーーーーー
「えっ……引退?なんでさ、私と冒険飽きちゃったの?」
忍者の様な黒装束に身を包んだ男から、突然に切り出された引退の言葉に彼女は声を大にして問いかける。
「そうじゃない、メルディー、お前、俺と組むためだけにS級昇格蹴っているだろ。」
「ストレラだって蹴ってるじゃん。」
「俺にはその実力はないからな、メルディーが居てこその評価だ、S級の称号に相応しくは無いさ。」
彼は自分を過小評価し過ぎると常々思っている。
つい最近も選ばれた裏ダンジョンを最強の名を持つもの達と最終回層手前まで達した所だ。
実力のある者でさえ褒める程彼の実力は、そこらの冒険者とは逸脱したものなのだから。
「何を言ってるのさ、本部ダンジョンを踏破した時点でストレラは英雄クラスの冒険者でしょ。」
「運が良かっただけだ、俺に相性のいい相手が多かっただけだって。」
「そんな簡単にクリア出来るなら、もっと踏破した人が居るはずだよ。」
謙遜も過ぎれば嫌味と同じだ、その性格が周りの冒険者からの陰口や妬みに繋がっている事を自覚していない。
「私はストレラがS級に上がらないなら受けない気だから、もう行こう、早くしないと日が暮れちゃうよ。」
「待った、メルディー。」
湖を越えようとする彼女を声をあげて引き止めるストレラ。
「何?まだ何かあるの、これ以上言うなら私口聞かないからね。」
「違う違う、確かここは奴らが居るから。」
そう言いながら彼が、手に取った石ころを浮島へ投げてみせる。
湖の上を放物線を描きながら飛ぶ石ころは、浮島へ辿り着く前にその姿を細かな粒子となり粉砕される。
一瞬舞い上がった水しぶきがその原因だ。
「わっ、針千鳥。」
人外の動体視力で捉えることが出来る素早い相手、それを瞳に捉えた彼女が敵の正体を明らかにする。
「そういう事、あいつらは素早すぎるからね、流石に知らずに向こうに行こうとしたら餌食になる。」
針のクチバシを持つ魚型のモンスターだが、群れで無数に飛び交う姿が千鳥の様でその名で呼ばれる。
並の冒険者ではその姿を見る事さえできない、その為妖精の花園はAランクのダンジョンとされているのだ。
「知ってれば対処出来る相手だよね。」
分かっていればどうにかなると、彼女はまた湖を飛び越えようと軽く助走をつける。
今度はストレラも口を挟まずに行動を見守る。
空中へ小さな身体を浮かせ、先に見える浮島へ飛ぶ彼女の下の水面が激しく揺れる。
無数の水しぶきが彼女目掛け突撃を繰り返すが、一振の剣閃でその全ては無力化され、湖が一瞬割れる、その間に無事、魔法陣が浮かぶ浮島へと辿り着く。
「流石。問題にもならないな、余計な事だったかもしれない。」
難無く超えて行った彼女の背中を見つめ、引き止めた行為が無駄だった気がしてしまう。
「次は俺か、あんな芸当は到底無理だな。」
足へ力を込め、少しの助走で数十メートルある距離を跳躍する。
案の定彼を狙い水しぶきが舞い上がり、彼の体を次々と襲うが、崩れさるはずの姿は霧の様に飛散する。
「やっぱりいつ来たのか分からなかった。」
「ただの手品だよ、暗殺技能のひとつ、誰でも出来る事だ。」
存在を消し、ダミーの残像に気配を残して移動する、暗殺スキルを持つ者がよく使う手で湖を超えて浮島へ渡った彼がそこにいた。
(それは技能があれば誰でも出来るけど、しなくても私でも追えないスピードで渡ってきてる時点で凄すぎるんだけど)
自分が見失う速さで動く者を、メルディーは彼ともう一人しか知らない。
ルール無用のタイマンならば、彼に勝つ事は誰も出来ないと言い切れる。
「やっぱり引退なんてするべきじゃないよ……」
先にダンジョンに消えた彼を追いながらぽつりとこぼす。
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「やっぱり出来ないや。」
あの頃ストレラが行った湖の上を走り浮島へ辿り着く荒業を真似て試した彼女。
走り抜ける事は出来たものの、衣服に数箇所裂けた後が残る。
「流石、私の旦那様だね。」
誇らしげに呟く言葉は相手への尊敬を多分に含んでいた。