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サボりの代償

 「色々問題もあったようだけど、無事依頼達成されて良かったね。」


 「そうですね、姫様も王位継承権の放棄、皇族席から抜けられたようで、冒険者の道に進むらしいですよ。」


 報告書に添えられたクリア姫がマッピングされた地図は中々のものだった。


 あちらの王家へ執事達を通じて報告をしたのが昨日、今日にはその返答が来たという事は、彼女の願いはとうの昔に決定されていたのだろう。


 同封された手紙には丁寧に宜しく頼む、また視察に赴かせてもらうと書かれていたが、要約すると娘を誑かしおって首を洗って待っておれという内容だ。


 「濡れ衣だ、俺は話し相手になれと言われてなっていただけなのに。」


 頭が痛い、そして胃が痛い、いくつ穴が開けば良いのだろうか。


 「姫様はこれからどうするって?」


 「冒険者登録はすんでいますが、当分は桃華さんから祈祷術の訓練、青薔薇とは実践の訓練を受けるそうです。」


 人選はナーネルちゃんに最終的に任せた形だったのだが、全て計算済みだったのだろう、何だかんだでクリア姫の冒険者育成計画が整っている。


 「それと、クリア様にはパーティーへ加入して貰いました、青薔薇はそちらのパーティーの育成もしてくださるそうですよ。」


 持つべきものは出来る副支部長、既に次に繋がる策を実行済みとは、彼女だけでなくひとつのパーティーの育成を放り投げられた青薔薇にはご愁傷さまである。


 「ちゃんと彼女達には依頼として出しておきました、支部長からの特別依頼で、青薔薇はうちでは珍しいまともな数少ないパーティーですからね、逃げられては困りますので。」


 持つべきものは出来る副支部長である、しっかり俺に胃薬を飲む機会も忘れないのだ、特別依頼は俺の財布から出るものじゃないか。


 「今回は疲れたしそろそろ帰ろうかな、しっかりへそくりにダメージも受けたんだし良いよね?」


 「お疲れ様です、とでも言うと思っているのなら私も甘やかし過ぎているのか今後を考えなければ行けませんね。」


 恐い恐い、無表情の彼女が微笑みを浮かべて話しかけるなんて、目が笑ってませんよナーネルちゃん。


 俺の前にどっさり積まれた書類、途方もない量に膨れ上がった山を見ながらやはり駄目かと溜息を漏らす。


 「どうにかならないですかね?」


 「サボったのは貴方です、しっかり責任は取るようにしてください。」


 「サボってた訳じゃないよ、ほら、やっぱり問題があるとさ、それに、結果的に大惨事を免れたのだし。」


 5日間彼女達を追って駆け巡った俺のおかげで問題は起こらなかったのだ、少しはその辺を考慮して欲しい。


 「何のことでしょう、支部長が5日間仕事を放り出して何処へ行っていたのか知りません。」


 いや、貴方は全部知ってるじゃ無いですか、なんでそこでシラを切るのでしょうか。


 「それに、報告では黒タイツの怪しい男が助けたらしいので、私は一切報告も受けてません。」


 「もしかして、怒ってます?」


 「何の事にでしょうか、ギルド業務を押し付けられた事でしょうか、それとも勝手な依頼の追加に仕事を増やされた事でしょうか。」


 どちらにも怒ってらっしゃるのですね、ここは静かに言う事を聞くしかないようだ。


 「分かりました、しっかり仕事終わらせますから……」


 「それでは頑張ってくださいね、私と他職員は、今日メルと約束がありますので。」


 「えっ、何それ、俺聞いてないよ?」


 職員までも参加する用事等滅多にない筈である、誰かの誕生日でもあるまいしどういう事かと思案する。


 何やらとてつもなく嫌な予感がするのだ。


 「まさか本当に忘れていたのですね、私でも呆れてしまって言葉が出てきません。」


 クズでも見る様な視線が俺に冷たく突き刺さる。


 ちょっと所ではない寒気が背筋を駆け巡り、気付かぬうちに大量の冷や汗が吹き出てくる。


 「そろそろ時間もないので私は行きますが、しっかり終わらせてくださいね、皆も今日の為に業務は終わらせていたのですから、示しがつきませんから。」


 そう言い残し、さっさと部屋を出て行ってしまった彼女が居なくなった後の部屋で、書類を片付け始めながら何を忘れているのか思い出そうと頭をフル回転させる。


 「今日、確かに何か忘れてる気がする、メル絡みだろ、誕生日はまだ先出し、祝い事?職員も呼ばれるなら俺も絡んでいるのか……」


 そうして終わりの見えない5日間分の仕事を進めながら、思い出した自分のスケジュール帳を取り出す。


 今日の予定の欄を見た瞬間、俺の表情が凍りつく。


 結婚記念日と書かれた日付は何度見ても変わりなく、目の前が明滅する。


 「や、やらかしたぁぁぁ。」


 その後、最愛の人からの冷たい視線、同僚の職員達からの白い目線に晒され地獄を味わったのは言うまでもない。

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