姫様、初めてのダンジョン7
4日目も荒野の探索は続き、3日目同様危険なことも無く順調に終え、最後の朝を迎える。
朝日が登り始めた野営地の広場に一人腰を下ろし、眼前に広がる砂漠を眺めるクリア。
「クリア様、早いですね、どうかしましたか?」
「あら、アキラさん、見える範囲でマッピングしようとしていたのですが、見渡す限り砂漠ですし、何やら歪んで見えてどうしようかと悩んでましたの。」
森林地帯の探索からアキラに教えられながら、やり始めたマッピングした地図を広げ彼女が答える。
「あぁ、砂漠は熱で歪んで見える事もありますからね、実際に歩いて見ないと距離感等が分かりにくかったりしますよ。」
「不思議ですわね、此方は涼しい位ですのに、あちらは凄く暑いんですわよね。」
「ダンジョンはびっくり箱みたいな物ですから。」
「びっくり箱?」
前の世界の例えを使う彼だったが、問い質されて気まずそうに頭を搔く。
「あぁ、思いもよらない事が起こる箱と言いますか、驚かせる玩具が僕の国にはあったんですよ。その玩具に例えて言い回した言葉だったんです。」
「びっくり箱……不思議な驚かされる場所、ダンジョンにぴったりな言葉ですわね。」
「そうですよね、新しいダンジョンに行くと僕も何時も驚いてしまいます。僕は朝ごはん作りますね、紅茶此方に置いておくのでお飲みください。」
「お気遣い感謝致します。」
何時の間に用意したのか、紅茶を淹れて彼女の傍らにある切株へ置いて彼は食事の準備に向かう。
「やはり私は冒険者になりたいですわ。」
死と隣り合わせな危険な職業である事、過酷で体力的にも自分は無力である事を自覚しながら、それ以上に魅力的な冒険者になりたいという気持ちをクリアは再確認する。
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「ここからは砂漠地帯、砂の中に潜むブラッドスコーピオンにはお気をつけ下さい。」
見渡す限りの砂だらけの景色、向かう先は見える三つの青い柱。
「結局最後まで見つからないなんてついてないな、一番厄介な此処にあったとは。」
「私は良かったと思っていますわ、しっかりと攻略しているのを感じるのです、危険も楽しい一時も、最後にはダンジョンの悪戯な洗礼も受けられるのですから。」
「楽しんで頂けたのなら我らも依頼を受けたかいがあるというものです、最後まで無事依頼達成させる為にも皆気を引き締めよう。」
エリアナの喝を入れる言葉に全員が声を挙げる。
足の取られやすい砂の上を歩きながら視線で捉えられる青い柱に向かって歩き出す。
近くに来れば移動する蜃気楼、いくら近づいても気づいた頃には遥か遠くへと離れて行く。
この様な場合無理に追いかけるよりも、周りに渦を描くように進むのが冒険者の知恵である。
少しづつ確実に近づくポーターに向かうメンバーだが、春蘭が異様な気配に気付き、先頭を行く想遊の肩を掴む。
「想遊止まれ、妙だわ、一匹も遭遇していない。」
「確かにそうですね、これだけ無駄に歩いてるなら何回か遭遇しててもおかしくないです。」
「どうかしたか春蘭、異常事態か?」
辺りを警戒しながら異変を感じ取る春蘭にエリアナが近づき声をかけた。
「エリアナ殿、妙なのです、以前は嫌になる程会敵した筈なのですが、流石に一匹も現れないと言うのは嫌な予感がします。」
「確かに、この区画だけ妙な気配が漂っている気がする。野性的な殺意とは違う、憎悪の様な殺意が漂っている。」
彼女は騎士として訓練を受けている、そういうものに敏感である為にずっと感じていた殺意について、春蘭にも語る。
「どうしますか?」
「我々の判断で引き返す事も出来るが……ここまで来たのだ、クリア様の意見に任せるとしよう、何かあれば私が命に変えても守って見せよう。」
二人のリーダーの結論は決まった。
クリアへ相談と今後の方針を求め一度軽い休憩を挟む事となった。
暑い砂漠地帯、タチアナの魔法で氷柱を作り涼む中、エリアナと春蘭がクリアに意見を求める。
「そうですか、危険なのですね。」
「何が起こるか分からないと言った所でしょうか。」
「危険な事には変わりありません、違和感を感じた時のダンジョンは何をしでかすか分かりませんから。」
「それでは、此処で依頼達成と言う事にしましょう。」
二人の言葉にクリアは即決で答えを返す。
ただ、その表情にはやはり残念であると如実に書かれている。
「行ける所まで行って見ましょうよ。」
「此処まで来て諦めるのが辛いのを一番知っているのは俺達です。」
「クリアちゃんはホーライとリリがしっかり守るの、もう少し冒険しようよ。」
話し合いに聞き耳を立てていたのか、他のメンバーがクリアの顔色を見ながら言葉を発する。
「一応帰還石はありますし、危なくなってからの撤退でも宜しいのでは無いですかエリアナ様。」
「アキラまで……困ったものだな。」
カリスマと言うものを持つエリアナ、この依頼の中で最終の決定権を持つ立場になっていた。
春蘭も彼女に全権を任せているようで、黙って彼女の判断を待つ。
「分かった、危険を感じたら即時撤退するからな。」
仕方ないと、メンバーの意見を尊重し、一同は先へ進む。
「まだ、付き合って下さりますの?皆様ありがとうございます。」
クリアは冒険が続く事を喜び、皆に感謝する。
だが、愚かで浅はかだった自分を、数分後には罵倒する事となる。