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姫様、初めてのダンジョン5

 スカイウルフの集団に囲まれるというトラブルはあったももの、クリア達は今日の野営地となる湖周辺へ無事辿り着いた。


 「エリアナ殿、今回の夜襲への見張りのローテーション何だが。」


 「見張り?私達は見張りをした事は無いのだが?」


 春蘭が打ち合わせをしようとエリアナへ声を掛けるが、当の本人からは信じ難い言葉が返ってきた。


 「いえ、流石にモンスターが活発化する夜に見張りを付けないのは不味いでしょう。まさか、ホーライ殿とアキラ殿だけで警戒しているとでも?」


 青薔薇は貴族子女であると聞いた事もあり、従者に任せっきりなのではと答えに至り問い掛ける。


 「いや、それではアキラもホーライも参ってしまう、我らは全員野営ではぐっすり寝る事にしているが。」


 春蘭からしてみれば、ダンジョン内にしろ城壁外にしろ外敵の存在する所で全員が休むなど考えられない事である。


 呆れた顔をする彼女を見ながら、エリアナは当たり前なのだがと彼女の言いたいことを理解していない様子であった。


 「春蘭様、エリアナ様は別に危機感が無いわけじゃないのです。僕達は危険が皆無なんですよ。」


 そこへフォローへ入るアキラ、彼はタチアナと桃華を連れて現れる。


 「どういう事でしょうか。アキラ殿には随時結界を張る神聖魔法でも使えるのですか?」


 「そんな大神官が行う儀式魔法使えませんよ。見てもらった方が早いですね。」


 野営の仕方は大体何処も見張りを置く事が普通であり、裕福な上位冒険者ならば聖水による保護結界を維持するという手も使う者はいる。


 ただ、聖水は相当高額のお布施と代金がないと買えず、一夜を過ごす量となれば高価な装備を買える莫大な金額となり、実際使う者はそう居ない。


 その為、春蘭もその考えは除外している為、もっと有り得ない方法が先に頭に浮かんだ。


 アキラに着いてくるように言われ、野営地とした場所から少し離れた辺りへと進む。


 アキラが何も無い場所に手をかざせばそこへ1つの像が現れる。


 「これは、女神シエスタ様の像…ですか…」


 突如現れる良く知られた女神をかたどった立派な像、何処から出てきたのか不思議でもあり、何故こんなものが必要なのか不思議で仕方ない彼女。


 「シエスタ様の女神像は本来街への魔物除け結界の媒介らしいんですよ。街が魔物に襲われ難いのもこの女神像のおかげなんだとか。」


 「いや、しかし、何故こんな物を持ち歩いて…ポーターと聞きましたが、これ程の物をいつも持ち歩いているのですか。」


 「そうですね、うちでは必需品ですので、後2箇所置きに行かなければなりません。」


 タチアナと桃華へ魔力の補充を頼み、次の場所へと向かうアキラの背後を眺める。


 「アキラ殿は何者なのでしょうか?」


 「私達の有能な従者、絶対あげないから。」


 魔力を注ぎながら、タチアナが彼女へと一言告げるのだった。


    ――――    


 その夜。


 焚き火を囲い、野営とは思えない整えられた食卓に着いて食事をとる一同の関心はふたつに別れていた。


 一方はアキラの能力の有能さに盛り上がるメンバー、もう一方は戦闘後から上の空で言葉を交わさないクリアを気にかけるメンバーである。


 「アキラ殿、あの目にも止まらぬ動き感服致しました。」


 「私達は接近戦に強いと自負していましたが、貴方の動きは見えなかった。」


 アキラの戦闘時の動きに感嘆の声を上げるのは、羅神と想遊の二人。


 彼等はアキラに詰め寄りあの時を思い浮かべて手に握るフォークを振り回す。


 「はぁ、あれは瞬歩モドキですよ、気配を薄くして移動しているだけなので、実際は目で追えていると思いますよ。」


 「しかし、動いた瞬間には想遊の元におりませんでしたか?」


 「認識が遅れているだけです、気配が残っているからそこにまだ居るのだと錯覚したんでしょう。」


 これはアキラにもよく理解は出来ていない、叩き込まれた肉体が覚えているだけであり、彼自身は無意識のうちに使っている技術でしかないからだ。


 「しかし、桃華の所へは一瞬で移動していたようですが?」


 アキラの説明とは、食い違いがある移動を行っていたのを覚えていた春蘭が疑問を投げかける。


 「それは、僕のポーターとしてのスキルでして、例えば……」


 「いや、それ以上は聞かないでおこう、他人への能力の詳細は出来るだけ秘匿する方が良いからな。」


 話出そうとした彼の言葉を遮り、彼女は料理を口へ運ぶ。


 「美味いな。」


 「ですよね、お茶も美味しいですが、この料理も凄いです、食材こんなに持ち歩けるならポーターさん私達も欲しいですよね。」


 食事に舌鼓する桃華、彼女も料理を手伝ったのだが、アキラの腕前には驚くばかり、何よりそれぞれの好みに応じた食材の豊富さには目を輝かせていた。


 「僕の容量は普通のポーターとは違うようなので、本来は小さな倉庫程度が平均の容量らしいですよ。」


 「私達が見ただけでもそれを遥かに超えているな。」


 自分達の背後に立つ宿泊小屋を眺め、規格外である事を再認識する黒蝶のメンバー。


 「タチアナ様、アキラ殿を我らにも貸し……」


 「駄目、アキラは私達の従者、何処にもあげない。」


 羅神が全て言い終える間もなく即答し、横に立つアキラの腕に抱きついて彼女が相手を睨み返す。


 「残念ですな。」


 肩を落とし残念がる彼の姿に苦笑しながら、アキラは気になるもう一方のグループに目をやる。


 「クリア様、やはり戦闘はショックが多かったでしょうか?」


 「いえ。」


 食事にも手をつけず未だ返答が単調な彼女を心配するエリアナ。


 「お姉ちゃん、大丈夫だよ。」


 アキラの作ったオムライスを口に運び、美味しそうに食事を進みるリリアナが明るくそう告げる。


 「リリアナ、お前は楽観視しすぎる、あれだけ危険な目にあって正気で入れる訳もないだろう、繊細なお方も居られるのだ。」


 冒険者になってから子供っぽさがより顕著に出てきたリリアナに彼女が呆れを隠さず言葉を返す。


 「大丈夫だよねぇ。クリアは余韻に浸ってるだけだもんね、でもそろそろご飯食べないと、折角のオムライスが台無しだよぉ。」


 「オムライス……っ、これがオムライス、リリアナの言っていた通り、綺麗な見た目ですわ。」


 リリアナの耳元で囁いた言葉にやっと反応を見せる彼女、目の前で薄く伸ばされた卵に濃厚なデミグラスソースが掛かるオムライスに目を輝かせる。


 「美味しいわ、リリアナの言った通り、絶品ですわ。」


 急変する態度でオムライスを食べ始める彼女を見て固まるのはエリアナである。


 「クリア様、今までショックを受けていたのでわ?」


 「あら、心配をかけてしまったかしら、ごめんなさい、初の冒険に胸が高鳴って、何度も思い返してしまって。」


 初の戦闘、モンスターに襲われ戦う中心にいた事で、彼女のテンションが高まり、余韻に浸っていただけというのが事の顛末であった。


 心配していたエリアナがオムライスを嬉しそうに食べる、彼女の姿を見てリリアナへの説教地味た言葉を思い出し、席を外したのは仕方の無い事だったのかもしれない。


 その後は皆食事を楽しみ、次の予定を確認する者、親交を深め話に華を咲かせる者に別れ夜は老けていった。

書き方や1つの話の長さが変わりますが、訓練期間の様なものなので生暖かい目で見守ってやってください。

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