姫様、初めてのダンジョン4
陽の光が差し込む森林、風に揺られ葉音が微かに聞こえる。
その中を二手に別れ、草木を掻き分け2つの影が進む。
後ろを追従する1団との距離を100m程取り、離れすぎない様に辺りを警戒しながら進む羅神と想遊。
お互いの姿を確認できるギリギリの距離を保ち、辺りの気配を確認し先行する2人が、互いに立ち止まり視線で合図を送る。
確認し合えば想遊が持っていた笛を鳴らし、背後へと合図、その音と共に羅神が前方へ駆け出し、茂みから此方を伺う気配へ突撃。
「ウォォォン。」
羅神の突撃に遠吠えが響く、それが合図となり、森の中がざわめき始める。
無数の気配が遠吠えを発したスカイウルフを、瞬時に両刀で首を刎ねた羅神に向かい迫る。
茂みから、木の上からはたまたま空中を数度蹴りながら跳躍し迫るスカイウルフの一団。
彼はそれを切りつけ応戦し数を減らす、近くに居た想遊も敵に察知され標的となるが、こちらは見事な体捌きで敵をいなす、攻撃の起動をずらし石に分断された川の様にスカイウルフは後方へと流される。
流された先に待つのは合図を受けて詰めていた春蘭、突進しながらの攻撃を空振りしたスカイウルフに出来た隙を躊躇なく一撃の拳で致命傷を与えて行く。
全線でスカイウルフを殲滅して行く3人の姿を前方に、ホーライを囲む桃華とタチアナが左右へそれぞれ位置を取り直し辺りを警戒。
気配に敏感なホーライが、周りを取り囲むように動いているスカイウルフに気づき唸り声を発し、リリアナが2人へ注意を施した為の行動であった。
タチアナはすぐ様氷槍を無数に作り出し、左側の茂みへ飽和攻撃を行う。
「キャウッ。」
連続して放たれる氷槍のいくつかが敵へと当たっているのか、時折高めの鳴き声がこちらへ響いてくる。
反対に右側では桃華の祈りが始まり、彼女達の周りに透明の半球体の半透明の壁が形成され、茂みから飛び出すスカイウルフが阻まれ動きを止める。
祈りに使う杖には先端に槍状の刃物が着いており、敵が動きを止めた瞬間を見逃すことなく的確に脳天の急所へ一撃を入れる。
それでも一気に群れで来るスカイウルフ全てを、彼女一人で撃破するには殲滅力が足りない。
それを見越して位置を撮っていたエリアナが、彼女の対応出来ないスカイウルフに剣を振り下ろしフォローに入る。
奮戦によりスカイウルフの死体も増えていくが、森から次から次へと現れる相手に数で劣る彼等は疲弊するばかり。
逆に相手は此方の行動を学習し、自分達の能力と数を生かし、戦略と連携を駆使し守られるリリアナとクリアを狙って桃華の張る結界を上空から狙う。
上空の結界に張り付きダメージを蓄積する相手に攻撃手段を持つタチアナが応戦するが、左側の攻めあぐねていた相手がそれを見逃す訳もなく、すかさず結界に張り付く。
永続的に精神力を使う祈祷術を維持する桃華も明らかに疲弊し、顎からぽたぽたと汗を垂らしている。
前線も危機的状況に陥っていた。
黒蝶は個々の力を最大限利用して戦う連携戦闘に特化したパーティーだ。
本来なら桃華が全員へ能力向上の祈祷術を施し、奇襲を仕掛ける。
想遊が回避しながらカウンターと引き付け、春蘭がメインの攻撃アタッカー、羅神が遊撃とサブアタッカーとして敵に混乱を引き起こし、うち漏らしを桃華が仕留める。
それを、各自随時移動しながら行う為、受動的な動きに群れでは数が仇となり翻弄され、数の優位性を失う。
乱れた所で彼らは姿をくらまし、奇襲を再度掛けその数を減らすを繰り返す、ヒットアンドアウェイ戦闘を行う。
休息を入れる事で長期において戦闘を持続させる利点もあり、機動力と個人的戦闘力を個々に持つ彼らならではの戦闘方法である。
もし、戦闘能力が一番低い桃華が、サシでエリアナとやり合えば、エリアナが勝つも苦戦を強いられると言ったところだろう。
ただ、今は防衛が主体の戦闘であり、どうしても後手を踏み、数の力を最大限利用される事となり、相手のテリトリーであるフィールドも相まって劣勢にならざる負えない。
徐々に傷を負う一同、桃華の結界にもヒビが生じたそんな時、存在が消えていた人物の声が響く。
「はいはい、皆様目と耳を合図と共に閉じて下さいね、その後はホーライ、しっかり暴れるんだよ。では、せーの。」
声と共に戦闘中心地を舞う丸い玉、彼の声と共に皆が目と耳を覆う、ホーライも前足を器用に使い耳を塞いで居る。
キィィィン
眩い光と耳に響く高音の大音量が森の中を駆け巡る。
フラッシュ・サウンドと呼ばれるアイテム、八尺玉程の大きさであり、持ち運びに難がある為、それ程需要は無い代物だが、素材も簡易に手に入り、一部の変わり者が持ち歩く事から錬金術師に頼めば手に入る代物だ。
発案者は誰か知られていないが、現代兵器のフラッシュバンやスタングレネードが元であろうから異世界人の作品だろう。
音が鳴り止めば、ホーライがリリアナの合図を受けて怯んだ敵へ鋭い爪と牙で攻撃を開始する。
アイテムを使った人物、アキラも前線で戦っていた春蘭達の元を駆け巡り、ポーションと体力回復剤の瓶を配る。
羅神の前に瞬間的に現れアイテムを手渡せば次に気づいた時には想遊、春蘭の元に、瞬きをした瞬間には次の人の元へ行きアイテムを渡している。
「み、見えなかった?」
「私達でも目で追えないとは…」
「今が好機、全員攻勢に出るぞ。」
アキラからのアイテムを飲み干したエリアナが声を大にして響かせる。
アキラの行動に気を取られていた黒蝶のメンバーもその言葉に意識を切り替え、怯む敵の殲滅に取り掛かる。
目と耳をやられ行動を無力化されたスカイウルフの数十の群れが全滅するのにそう時間はかからず、ものの数分後には辺りは彼らの慣れの果の魔石が転がるばかりであった。